7人のサムライ(前編)

生きろ―。
今日もこの言葉を噛みしめるとは…。

 

 

マオイスト

カトマンドゥからスノウリへと向かうバスに
乗っていたのだが、ある事件に巻き込まれてしまった。

現在、ネパールはちょっとした混乱に陥っている。
つい先週、突如として王国が終わり、大統領が誕生した。
そのためなのか因果関係は不明だが、
マオイストと呼ばれる組織が各地でストを起こしている。

彼らのやり方はこうだ。
主要道路や橋を封鎖し、通行車両を襲撃。
おかげで交通マヒが起きている。
投石によって窓ガラスが割られた車や、
無残に焼き払われたタイヤをよく目にする。

 

運行はキャンセルだ

順調に走っていたバス。
ある橋に差し掛かろうとした瞬間、
運転手が大声を上げた。「マオイストだ!」
バスボーイが車体を叩いて後方の安全を確認する。
運転手は急ハンドルを切って、Uターンを試みた。
後続車もすべて同じ光景だった。

 

逃げる。逃げる。
けたたましいクラクションを鳴らしながら、
何台もの車がわれ先にと元来た道を急いだ。
本日の目的地スノウリが遠ざかっていく…。
安全な場所に着いたのか、バスは停車した。

そして運転手は言う、「今日の運行はキャンセルだ」。
渋り顔のバスボーイが運賃の払い戻しをはじめた。
ここはネパール。日本と違って迂回路はない。
橋を1つ封鎖されるだけで、
飛行機を除く交通機関がストップする。

このバスに乗り合わせていたツーリストは7人。
お互いに困った顔を見合わせた。
そして運転手にこう尋ねた。

「スノウリに行く方法はないのか?」と。

方法は2つだった。近くの街まで戻って、
ストが収まるまでの1、2日待機するか、
もしくは歩いて橋を渡り、次の街でバスを拾うか。

「危険はないのかい?」
「あぁ、ツーリストに危害は加えないと思う」
再び顔を見合わせた7人、
「よし、行こう!」、考えは同じだった。

 

 

サムライたち

 

6人の欧米人と1人の日本人。
マオイストが待ち構える橋を突破すべく、
7人のサムライが立ち上がった。
各自に荷物を背負い、臨戦態勢は整った。

「次の街まではどれくらいだい?」
「あぁ、15kmだよ」
え、えぇ…!!である。
兜の尾がゆるむひと言。早くも戦意喪失だ。

それでも6人の欧米サムライは歩き始めた。
ま、待って、ついていくよぉ(泣)
荷物の重量は30㎏。
先日の80kmトレッキングで痛めた身体は
少しも癒えていない。
両脚は激しい筋肉痛、足の裏のマメはつぶれている。
気温30度を超す森の1本道を、
見えない未来に向かって歩き出した。

 

ものの10分で、身体は悲鳴を上げ、
「絶対無理だ…」と、泣き言をつぶやく。
神様、どうしてこんなにも試練を与えるの?
腕を噛みながら、左右によろけながら…。
額をつたって流れ落ちた汗が目に入り、
涙と混ざって視界を滲ませた。
「つ、辛いよ…」

生きろ―。
今度ばかりは自信がない…。

 

旅のカケラ/slideshow

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