曇り空のムコウ

午前4時、目覚ましとほぼ同時にベッドを抜け出し、
オープン ザ ウインドウ。

よし、雨が止んでる♪
サンキュー、てる坊!

 

空港へ向かう

 

まだ暗い道をひとり歩き、
雲の切れ間から見える月に祈った。

―行きたい、ジョムソンに―

今、アンナプルナという山を目指している。
ポカラからジョムソンへと向かうプロペラ機に乗り、
そこからは徒歩というのが通常のルート。
ただ、この時期のフライト成功率は20%で、
連日のようにキャンセルが続いている。

さて今日はどうだろう?

 

空港待機

 

空港に着き、チェックインカウンターへは一番乗りだった。

「今日はジョムソンの天候が悪いため、空港待機です」

 

ポカラは晴れていたものの、ジョムソンには分厚い雲。
有視界飛行のプロペラ機にとって最大の敵である。

ジョムソンへのフライトは1日に3便あるが、
空港待機になった場合は最初の1便しか飛ばない。
リミットは10時。それ以降は違う空へ飛行機は飛んでいく。

 

「待つ」、この旅でウエイトを占めている時間だ。
バスの故障で、代わりのバスが来るのを5時間待った。
いつまでもやって来ない列車を、ぼんやりと8時間待った。
「待つ」、しんどい時間ではあるが、
考えようによっては素敵な時間でもある。
それは、願う未来への入口にいて、
焦らされながらもワクワクできるのだから。

飛べない豚はただの豚だ。
野太い声を回想しながら、飛べない飛行機を眺めた。
定員はたったの14人。
この14人の思いはひとつだ。
飛べ、飛んでくれ!

 

ファイナルコール

「シタエアー、ジョムソン! シタエアー、ジョムソン!」
出発の合図がかかった!
よし、よし! 20%をものにしたぞ!

午前8時30分、嬉しさを噛み締めながら
ちょっとにやけ顔で機内へ乗り込んだ。
機内は各窓にシートが1列ずつと狭く、
コックピットもむき出しだった。
初めて目にする飛行機の操縦。
キャップと副操縦士がお揃いの
トップガンサングラスをかけ、エンジンが唸りを上げた。
機体は激しく揺れ、期待は激しくふくらんだ。

さあ、曇り空のムコウへ!

 

ジョムソンまであと少し

雲の割れ目を縫って飛行機は舞った。
ジオラマみたいに小さくなっていくポカラの街。
すぐに景色は深い緑に変わった。
雲に包まれ、何度も機体が突き上げられる。
強いGに襲われ、鼓膜が割れるように痛む。
もう窓の外は真っ白。コックピットからの景色も同じだった。

紅の豚は白い悪魔と闘っていた。
キャップと副、何度も前方を指差し
あれか? いや、あっちでしょ?
と、降り立つ空港を探している模様。
事態の深刻さは、ミシミシと軋む機体から
しっかりと伝わってきた。

「ダメだ!引き返すぞ!!」

キャップが叫んだ。
14人の表情がこの雲に負けないくらい
どんよりと重たくなった。
そう、これが現実。
成功率20%、ドラマのようには行かないものだ。
元の空港に着陸し、陽気な欧米人がつぶやいた。

「ウエルカム トゥ ポカラ♪」

この言葉になんだか救われた気がした。
再び空港で待機するものの、
さっき乗った機体は、違う14人を乗せて
カトマンドゥへと飛び立っていった。
こんなもんだよ、自分に言い聞かせ
よたよたと宿への4kmを歩き出した。

 

いつも未来は逃げていく

あと一歩というところで、いつも未来は逃げていく。
あれは小笠原諸島の父島に行ったとき。
日本一美しいと言われる「南島」にあと50mまで迫りながら
波が高く上陸できなかった。

この旅でもそう。
恋焦がれたチベットまでもう少しというところで
あの暴動が起き、道が閉ざされてしまった。
宿のオーナー・チャビはその姿を見つけるなり
駆け寄ってきた。

「どうした?ダメだったか…?」
「うん、ジョムソンの上空までは行ったんだけどね(苦笑)」
「ユー アー ラッキー! ただで遊覧できたんだ、ハハハ」

そう、考えようであり、角度を変えればそれもまた素敵な現実。

カメラを盗難に遭い、でもたくさんの人に助けてもらった。
バングラで国境閉鎖に遭い、でも思いがけない冒険が待っていた。
そして今日、雲の隙間から確かにヒマラヤの一部を見た。
人間って、モノゴトを後ろ向きに考えるのは得意なくせに、
前向きに考えるときにはたくさんの体力を使う。
なんでだろう?
でも誰かのひと言で、ポンと背中を押され、
気持ちのギアが入る。

明日、残された最後のチャンス。
もう一度、曇り空のムコウへ挑戦してみる。
たとえダメでも、違った角度から素敵な未来を描こうと思う。
この気持ちが明日も残っているようにと、
ここに書き記しておきます。

 

旅のカケラ/slideshow

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