待ちぼうけ列車

窓の外にはタクラマカン砂漠。
「敦煌」から「トルファン」に向かう列車の中にいた。

乾いた砂の大地に、ひと筋の線路。
かつて絹を運んだシルクロードは、
その糸を紡ぎ合って、線路へとカタチを変えたようだ。
どこまでもまっすぐ伸びる、希望の架け橋と呼ぼうか。

 

まさかの大雪

昨夜は23:56発のチケットを買っていた。
しかし、掲示板には「NO TIME」※到着未定
の文字がむなしく点灯していた。

ずいぶん北まで移動してきたため風が冷たい。
気温は3℃、ダウンを羽織り、
水筒にお湯を入れて暖をとる。
時間の感覚が人によって違うように、
場所や気持ちによっても大きく違うようだ

旅をはじめてからというもの、とみにそれを実感する。
たった3分の山手線ですら、イライラと待っていたのに
今じゃ時計を見ることも少なくなった。
時間は意地悪だから、
なにかにとらわれていると、それを見透かして
ゆっくり進んだり、早く過ぎ去ったりするらしい。

 

待ちぼうけ

待合室のベンチに腰を降ろし、
「NO TIME」の掲示板を眺めていた。
でも中国はそんな旅人に退屈を与えない。
駅員が大声でなにかを叫ぶ。
列車の状況を伝えているようだが、聞き取れない。
すかさず周囲の人たちが寄ってきて
その駅員の言葉を、別の中国語で説明してくれる。
もちろん理解できない…。
ある人はゼスチャーで、ある人は紙に字を書いて。
背中に手を添え、切符の交換へと連れて行ってくれた人もいた。

誰もが同じ列車を待っている。
黙って座っていると、タバコやビール、
挙句にはギターまで回ってきて
1曲披露しろ、という。苦笑い。

コリアン(韓国)か?リーベン(日本)か?
「日本人です」
おー、おー! 握手を求め、肩を叩く。
反日感情なんてどこふく風だ。
そんな温かな時間だから、
7時間の待ち時間も、まったく気にならなかった。

 

もうすぐ夜が明ける

午前4時、遅れていた列車がホームへ滑り込んできた。
荷物を網棚に放り上げ、寝台の硬いベッドに潜り込んだ。

―もうすぐ夜が明ける。
そんな風に昨夜のできごとを反芻しながら
狭いベッドで日記を書いていた。
到着予定は13時、まだ余裕がある。

窓の外にはタクラマカン砂漠。
車内アナウンスが鳴った。

「%&&$%&…ルファン?」

ん? トルファンって聞こえたような。
「チャー リー トゥルゥファン?」※ここはトルファンかい?
3段ベッドの中段から顔をニョッキと出して、
周囲の乗客に大声で問いかけた。
「シー、シー!」※そうだよ、そうだよ

 

ここトルファンだよ!

ゲっ、マジで!?

7時間遅れた列車のくせに、
到着予定は1時間早まってやんの…。
やっぱり時間を気にしてたら身が持たない国だ。

大慌てで荷物を抱え、列車から飛び出した。
しかし、一緒に旅してる友人の姿がない。
別車両の席だったので、急いで探しにいくと
デッキで優雅にタバコを吸っていた。

「ハァ、ハァ…、ここトルファンだよ!」(KAZ)
「ホント?ヤベェじゃん」(HIRO)

 

今日も旅をしている

 

人によって時間の感覚は違う。
彼の体内時計は、のんびりと時を刻むようだ。
車掌を呼びとめ、事情を説明し
しばし出発を待ってもらった。
無事に荷物を運び終え、
謝謝!※ありがとう と頭を下げると、
車掌は笑顔で「バイバイ」と手を振ってくれた。

広大な大地を、のんびりと時間が通り過ぎていく。
だから、いろんなことが気にならなくなる。
改札を出てすぐ、あることを思い出した。
それは、枕元に置き忘れてきたチョコレートのこと…。
楽しみにとっておいたぶん、悔しさが込み上げた。

まだまだ小さい自分が、今日も旅をしている。

旅のカケラ/slideshow

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