昨日ケニアに入ったものの、
バスはすべて出払った後で
ここ「モヤレ」で1泊することを余儀なくされた。
バスは明日だ!
砂っぽく、食事が楽しくない町では、
することもなく、
『ハチミツとクローバー』のDVDを鑑賞しながら
蒸し暑い夜を過ごした。
美術大学を中心に巻き起こる4人の片思い…
原宿や神宮前、知ったる街の景色を画面で見つめ、
日本に片思いをする自分がいた。
午前8時、1泊たったの150円という
激安宿を後にし、バス乗り場に向かった。
「バスは明日だ!」
そう、ここモヤレからナイロビに向かうバスは
不定期で、下手をすれば1週間待ちとも…。
さて、どうしたものか。
もう1泊はもちろんゴメンだ。
実はもう1つ交通手段があって、
地元の人たちはこちらを主に利用している。
“タンクローリー”である。
再びの交渉
牛や山羊を運ぶローリーが毎朝この町を出発するので
交渉してそれに乗せてもらうというわけ。
ブローカーもたくさんいて、
観光客をつかまえては、乗車の斡旋をしてくる。
彼らの言い値はこうだった。
荷台=1500シリング(約2200円)
助手席=3000シリング(約4500円)
さあ、運命の選択だ。
どうする?
仲間に尋ねてみた。
3人は「荷台でしょ、楽しそうだもの」と、
意見がそろっていた。
えぇっ!?、に、荷台を選びますか…!?
助手席を買うよ
この移動はアフリカイチ過酷と聞いていた。
しかも荷台には牛が乗っていて、
その上に鉄の梁を張って、そこに座るシステム。
そして15時間以上走る…。
「じゃあ、俺は助手席を買うよ、いいね?」
みんなと比べて2倍の値段だったが、
その価値は2時間後に明らかとなった。
ローリーの助手席は広く、見晴らしもいい。
まるで映画のスクリーンのようで
流れる景色に感動した。
早々に運転手に気に入られたのも大きく、
カメラを構えればスピードを緩めてくれるし、
冷暖房もこまめに調整してくれた。
休憩所ではジュースまでおごってくれるし♪
ただ、ちょっとでもうとうとしていると、
ヘイ、ジャパン!と、大声で起こされる。
「俺が退屈だろ?」
まったく人懐っこいドライバーだ(笑
最初の休憩でランチを摂った。
3人の表情は険しく、口数が少ない…。
「荷台は最悪だよ…身体が痛いって…」
そう、道はまったくの未舗装で、
ありえない大きさの轍が無数にあり、
終始上下に揺れて走る。
助手席にいても大きくジャンプしたときは
腰が浮くので、
荷台はもう地獄絵図だそうだ。
柱にしがみついていないと振り落とされて、
牛の中か、運が悪ければ道路に放り出されるんだもの、
いつだって命がけさ。
「助手席買えばよかった…」
まだ試合開始から2時間、
野球なら1回の裏、ボクシングなら1ラウンドが
終わった程度。先はう~んと長い!
ひとりが運転手と交渉しにいった。
「追加料金払うから、中に乗せてくれ!」
運転手は笑いながら言う、
「ノーチャンス!」
車窓のサバンナ
見渡す限りのサバンナが広がり、
360度の地平線がつづいていた。
写真では写らない、スゴイ、スゴイ景色だった。
やがて日は暮れ、アフリカの夜を走る。
そして、相変わらず眠らせてくれない運転手…。
ローリーは17時間走って、
ようやく大きく深呼吸をした。
「イシオロ」という小さな町で降ろされ、
ここからはバスだという。
満身創痍の3人を残し、ひとりでバスを探しに出かけた。
腕時計は午前3時、バスの出発は午前6時だと知った。
チケットオフィスで交渉し、出発までの3時間を
バスの中で寝かせてもらうことにした。
束の間の休息、
彼らは死んだように眠っていた。
ナイロビまではあと4時間という距離にいる。
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