幸福のアラビア

紅海に面した小さな町がある。
その名は「モカ」。

かつてこの港は世界最大のコーヒー積み出し港で、
その名をとってモカ・コーヒーという
名前が世界に広まった。

 

モカはどこ?

時は経ち、モカは寂れた港町となった。
イエメン人はコーヒーをほとんど飲まないし、
輸出にも積極的ではない。
コーヒー畑もほとんど姿を消すという有様…。

だから、「モカに行きたい」と
タクシーの運転手に告げても
「それはどこだい?」と、存在すら忘れ去られていた。

結局、モカに行きたがるタクシーはなく、
あっても法外な金額をふっかけられてしまった。
泣く泣くモカ行きをあきらめ、
今日はタイズ旧市街のスーク(市場)を練り歩くことにした。

 

タイズ旧市街

城壁に囲まれてスークは広がっている。
銀細工や布地を売る店がところ狭しと立ち並び、
活気に満ち溢れていた。
特にジャンビーアと呼ばれる半月刀を売る店は、
「5ドルでいいから」と積極的に呼び込みをする。
欲しいけど、銃刀法違反で捕まっちゃいますから…(苦笑)

一本道を外れると、
今度はコーヒー豆を売る店がひしめきあっていた。
コーヒーは苦手だが、あの香りは好きだ。
これがコーヒーの女王“モカ・マタリ”かぁ、と
豆を手に物色して歩いた。

写真大好き、日本人大好き!なイエメン人。
今日も熱烈な歓迎を受けながら、
スーク内の人気者になった。
ちょっと足を止めればたちまち人だかりができてしまう。
異教徒は入れないモスクにも案内され、
日本式に両手を合わせてアッラーにお祈りをすると、
OK、OK!と親指を立てて、イエメン人もご満悦だった。

 

真の豊かさに気づいている

さて、話は変わるが、中近東の旅はとても穏やかだ。
日本にいた頃は、物騒なイメージが強かったが
実際に来てみると人々は優しく、街も平和そのもの。
特に観光客には友好的で、この上なく世話を焼いてくれる。
結束力が固い彼らだから、
怒りに触れたときはきっと恐いのだろうけど。

ただ、アメリカ嫌いは著しい。
イラクやアフガニスタンに対するアメリカの姿勢を
強く非難している。
ここイエメンもアルカイダの基地があるとして
掃討作戦が行われた経緯がある。
イスラム諸国とアメリカとの軋轢は21世紀の課題だろう。

しかし、なぜ日本に対してはこんなに友好的なのだろう?
どちらかといえばアメリカ寄りな我が日本。
不思議である。
あるムスリムにこんなことを問われた。

「日本はアメリカに原爆を落とされたのに
なぜそんなに仲良くできるの?」

東京の次に有名な日本の街は、広島と長崎。
奇しくも、明日は終戦記念日である。
彼らの優しさは、ひょっとしたら同情も
含まれているのかも知れない。

政治や宗教の話は難しいので、極力避けているが
やっぱりイスラム諸国を旅していると、
無関心では通り過ぎられない。
アッラーに対する篤い信仰心、
貧しさを感じさせない無償の優しさを
目の当たりにするからだ。

彼らはきっと真の豊かさに気づいている。

 

平和だから

たとえば今、世界では平和の祭典である
オリンピックが開催されている。
日本では連日、テレビに熱い視線を送っているだろう。
ここイエメンでは、誰もオリンピックに関心がなく、
TV放送やニュースは皆無。
シャイと呼ばれる甘い紅茶をすすり、
カートと呼ばれる葉っぱを齧りながら
一日中談笑にふけっている。

「だって平和だから」

そんな声が聞こえてきそうだ。
アラブで一番貧しい国は、
今日も優しい時間が流れ、
満面の笑みで幸せを語り合っている。

イエメンを旅して10日、
“幸福のアラビア”
そう謳われる意味がわかってきた気がする。

 

旅のカケラ/slideshow

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