崩れ落ちる快感!? ~パタゴニア3日目~

 

エル・カラファテに来たからには
ぜひとも訪れたい場所がある。

「ペリト・モレノ氷河」

全長約35km、高さ60mに及ぶ氷の壁を見てみたい。
この辺りは豊富な降雪と暖かな気温のため
流れが速いのがこの氷河の特徴らしく、1日に2mほど
氷が動いている(押し出される)という。
よくテレビで見かける、“大崩落”を期待しようではないか。

 

ペリト・モレノ氷河へ

前日にバスのチケットのみを取っておいた。
ツアーに参加しようと思ったが、
パタゴニアはとにかく高い…。
氷河の上を歩くツアーなんて約15000円だもの!?
ここはひとつ、氷河公園のミラドール(展望台)で
我慢しようじゃないか。

バスは往復で80ペソ(約2400円)だった。
エル・カラファテの町からはおよそ80km、
約2時間で到着する。
行きは午前8時30分発で、帰りは午後3時30分発だから
現地では約5時間滞在できる計算だ。

「学生証持っていきなさいよ」
宿の女将さんが出しなに声をかけてきた。
「学生割引を使えば入場料が10分の1よ」
それはデカイ!
財布の中に学生証があることを確認して玄関の扉を開けた。

バスに乗り込み、30分ほど走っただろうか?
空は次第にグレーがかり、やがて雨粒が落ちてきた。
昨日の「フィッツ・ロイ」につづいて、今日もも雨??
晴れ男のタイトルは返上することに決めた。
南米に入ってからツキに見放されている、
いや、そう思っているから
負のスパイラルから抜けられないのかも知れないが、
とにかく冴えない…。

 

国立公園の入口で入場料を支払ったが
学生割引は却下された。
「アルゼンチンの学生だけです」
ちぇっ、色気のない言葉だ…。
ペリト・モレノ氷河国立公園の入場料は
60ペソ(約1800円)だった。
世界中の観光地で言えることだが、どこも年々入場料は上昇し、
新年を迎えてまた20ペソ(約600円)上がったそうだ。

 

 

冷たい風と遊歩道

バスはフェリー乗り場で停車した。
「船から氷河を見る人はここで降りてください」
と、アナウンスがあったのだろう(スペイン語なので聞きとり不可)
8割方の乗客がバスを降りて小さな山小屋のオフィスに向かった。
フェリーはたしか35ペソ(約1000円)と聞いている。
魅力的なオプションだが、いいさ自らの足で十分。

やがて遊歩道の入口に着き、バスを降りる際に
「帰りはここ?」と、帰りのチケットを見せながら
バスを指差して尋ねた。
英語が通じず、スペイン語が話せない状況は
なぜか無言(口パク)になってしまう…変なの(笑

バスの車窓からチラっと氷河が見えただけでドキっ!とした。
けっこう心のハードル(期待値)を高くして訪れたのに
その遥か上空を突き抜けた。
小雨舞う中、ミラドールへと歩を進めた。
遊歩道は氷河を囲むように延びている。

冷たい雨風に晒されながら、
カメラをしっかりとガードして歩く。
レンズの水滴を何度も拭いながら
かじかむ指先で力強くシャッターを切った。

 

青白く輝く氷河

パン!と、静けさを打ち破るように乾いた銃声がした。
なんだろう?とキョロキョロしていると、
氷河の一角が小さく崩れ落ちた。
音の正体は氷河に亀裂が入った音で、
氷にウィスキーを注いだときと同じ、小気味いい音が響く。

青白く輝く氷河。
雪の結晶が溶け、そこに圧力がかかったためで、
この氷は気泡が少なく、透明度が極めて高い。
そのため青い光だけを反射するそうだ。
一周2kmほどの遊歩道には、いくつかのミラドールがあり、
誰もが夢中で写真を撮っていた。
そして皆、大崩落の瞬間を待ち続けている。

氷は水となり、水蒸気となって空に昇る。
そして雪になり、氷河を押し進めて大崩落を招く。
輪廻のように繰り返される自然のサイクル。
それは数万年の旅だと言うから、気の遠くなるような長さだ。

 

雨粒が疎ましい

大崩落はやたらと見られるものではない。
待ち構える忍耐力と、そして運が必要なのだ。
雨も降り止まない、今の運じゃ難しいだろう…。
2時間ほどかけて遊歩道を一周し、
雨が強くなってきたのでレストランに避難した。

窓の雨粒が疎ましい。
せっかく、せっかく…と、空しい呪詛を吐く。
溜息も一緒に吐く。

リュックから本を取り出し、しばしの読書。
何か注文しようと思ったが、価格が尋常じゃない!
店内の隅っこに隠れるようにして本を読んだ。
活字と暖気に眠気を誘われ、ついウトウト…。

ハッと気づくと、嘘のように日差しが降り注いでいた。
雨上がりの虹、希望の架け橋。
慌てて外に飛び出し、遊歩道をもう1周することにした。
空が晴れると、心も晴れる。
さっきまでは運の無さを呪っていたのに、
単純なもので今じゃツキを誇っている。

 

晴れ間と轟音

氷河の青さは増していた。
それは心の靄が取れたせいかも知れない。
風の冷たさは変わっていなかったが、
まったく気にならなかった。
晴れ間が覗いたせいか、ミラドールは人でごった返していた。
大崩落を待ちわびているのだ。
人を掻き分けて写真を撮るのも疲れるので、
もう少し先に進み、誰もいない不人気なミラドールで
ベンチに腰を下ろした。
ここでいいや。

するとどうだろう、
腹の底まで響くような轟音とともに
氷河が崩れ落ちたではないか!?

う、嘘ぉ…!?

わずか数コンマの出来事に身体は反応し、
気がつくとしっかりとシャッターを切っていた。
一眼レフは連写が効くので、
マシンガンのように乾いた銃声を響かせた。

見た?今の見た??

周囲には誰もいない。
なんだか本当の出来事がどうか疑わしく思ったが、
カメラにはその様子がしっかりと収められているから
間違いないだろう。
運いいじゃん、俺♪

 

スローモーション

この大崩落をきっかけに、氷河はサービスを開始した。
太陽が顔を出し、気温が上昇したためか
このあと3度も大崩落を目の当たりにした。
「おぉ~!!」
周囲から歓喜の声があがる。
まるでスローモーションのように
ゆっくりと氷の塊が崩れ落ち、激しく水面を揺らした。

崩れ落ちる快感!
自分の中に破壊的な快楽を求める気持ちがあるのは恐いが、
見ていて爽快な気分だった。
最近は悪いことが重なっているが、
氷河に喩えるなら、
悪い運気もやがて水蒸気となって空に昇る。
そしていつか再び自分に帰ってきたとき
何かを突き動かす力になっているはずだ。

試練だと思おう。
1つ乗り越えるたびに強くなる。
損得勘定だけじゃ旅も人生もつまらない。

 

旅のカケラ/slideshow

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