おととい来やがれ!

ラダックのラマユルからバスに乗り込み、
ジャンムー・カシミール州の
「スリナガル」へやってきた。

ラマユルからスリナガルまでは約12時間、
620ルピー(約1700円)。

 

スリナガル

スリナガルといえば、美しい山、澄んだ湖、穏やかな川。
ちょうど今の季節は花が咲き誇り、
優雅にハウスボードに揺られて
1日を過ごす…なんて想像をしていた。

ところがだ…。

街は喧騒に包まれ、テロが頻発しているためか
銃を構えたポリスで溢れかえっている。
しかもインドの山間部にも関わらず、ひどく蒸し暑い。

それでも念願のハウスボードは確保した。
ただし“優雅”とはかけ離れていて、
茶色く澱んだ川にひっそりと浮かぶ屋形船。
1泊150ルピー(約400円)だから、
まぁ値段相当であり、文句は言えない。

 

少年に連れられて

 

17歳の少年が客引きとしてバスに乗り込み、
しつこく勧誘してきた。

「近くの湖まで舟で連れて行く、もちろん無料で」
「プラス100ルピーで2食付けるよ」
「連泊してくれたら割引するから」

そこまで言うなら泊まろうじゃないか。
と、彼を信じたのが間違いのもとだった。
彼はただのお調子者。

いざボートにつくと、オーナーである彼の父の言い分とは
話が大きく食い違っていた。
湖に行く舟は有料だと言うし、食事の彼が言う倍の値段。
頭にきたので、「話が違うじゃないか」と食い下がった。
そんな口論が30分ほどつづき、「息子を呼んで来い!」と、
オーナーを部屋から追い出した。

 

舟に乗りたいか?

数分後、少し遠慮しがちにオーナーがやってきた。
そしてひと言、「舟に乗りたいか?」と。
ああ、乗りたいさ。それが目的でスリナガルまで来たんだ。
あなたたち親子のお陰で、非常にがっかりだよ。
まだまだ有り余る文句を突きつけてやった。

じゃあ、夕方に舟をとってくるから好きなだけ乗るがいい。
それでハッピーだろ?
そう言って握手と和解を求めてきた。
がっちりと握手を交わし、部屋に戻ると
あのすっとこどっこいの息子が遊びに来た。

ひょうひょうとした態度に怒りが蒸し返したが、
もう済んだ話だ。
適当に調子を合わせながらも、
早く部屋を出て行ってくれよと、思っていた。

 

おととい来やがれ

「ごめん、疲れてるから寝るよ」

そう言って部屋から出て行くように促した。
「日本語でバイバイは、“おととい来やがれ”って言うんだよ」
せめてもの仕返しにでたらめを教え、
おととい来やがれ!と、笑顔で手を振った。

彼も嬉しそうに、
「オトトイキヤガレ」と、手を振り出て行った。

そして船の外では、
オトトイキヤガレ、オトトイキヤガレと
練習する声がしばらくつづいた。
明日から彼は客引きの際、
日本人には「オトトイキヤガレ」と
笑顔で言うのだろう…笑

 

旅のカケラ/slideshow

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