オレンジデイズ ~1日目~

オレンジデイズ ~1日目~
エジプトからスーダンへは、
フェリーで国境を越える。

 

長い旅路のはじまり

そう、ナイル川を南へと下るのだ。
フェリーターミナルに着いたのは午前9時。
10時の開門まで列を作って待った。
思えばこれが長い、長い旅路のはじまりだった。

定刻どおりに門が開き、
荷物チェックと出国審査が執り行われた。
拍子抜けするほどあっさりとスルーでき、
11時にはフェリーに乗船できた。
2等客船は286ポンド(約5700円)で、
固いシートの長椅子だった。

幸いエアコンはよく効いている。
客船というよりは貨物船と呼びたくなる代物だった。
甲板にはこれでもか!と、荷物が積まれ
足の踏み場もない…。

当然ながら客席でも荷物の置き場争いは激しく、
いたるところで小競り合いが起こっている。
早くに乗り込んで席と荷物置き場を確保したので
悠々と本を読みふけり、出航を待った。

 

動かないフェリー

ところが…。
いつになったら出航するのか!
時計を見ると、すでに午後4時を指していた。
依然として、人と荷物の搬入がつづいている。
窓から差し込む光はオレンジがかり、
未だ動かないフェリーに焦りを感じた。

手にした村上春樹は、
残り数ページを数えるだけとなっていた…。
荷物の山と化した甲板に出てみると
ナイルに沈む夕日を見つけた。
アスワンで過ごした1週間、
毎日のように目にした光景だ。

太陽が沈むと、空にはひとすじの茜が残り、
水平線の上に、夜との堺目が浮かぶ。
エジプトで見る最後の“オレンジ”だった。

2冊目の本に差し掛かったとき、
プオーン、と汽笛が鳴った。
船内にオイルの匂いが充満し、
低いノイズで椅子がガタガタと震え出した。

 

出航だ!!

午後6時、
ゆっくり、ゆっくりと
重たい船体がナイルを滑り始めた。

乗船してから実に7時間が経過していた。
船内は狭く、
とても身体を横たえるスペースはない。
しかもスーダンまでの乗船時間は
およそ18時間だと聞いている…。

1年前なら、きっと発狂していただろう。
ただ、この旅で悟ったことがある。
それは時間との向き合い方。
まだか、まだかと、
時間を意識してはいけない。
時の流れに身を任すことが大切だ。
時間はけっこう意地悪で、早くも遅くもなる。

18時間も何をしよう…?
こんなときは、頭ひねるよりも、
腹をくくるほうが正解なのだ。

主導権を時計に譲り、
流れの中に心を泳がせ、
もの思いにふけった。

長く、深い夜。
でも、けっして居心地は
悪くなかった。

(オレンジデイズ ~2日目~ につづく)

 

旅のカケラ/slideshow

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