ナツタビ’17(サハリン編) #4 あの夏を忘れない

車窓には鈴谷平野の草原と白樺の森。
遠くには山々が連なって雄大な景色が広がっている。
ときおり低い警笛を鳴らしながら
ガタゴトと小気味好いリズムで
一本の線路を進むサハリン鉄道。
今日は宮沢賢治の足跡をたどる、
銀河鉄道の旅に出た。

サハリン鉄道は日本統治時代に敷設された
樺太庁鉄道が現役で走っている。
英語が通じないなか、
なんとかユジノサハリンスクから
ドリンスクまでのチケットを買い、
1両しかない客車に乗り込んだ。
ダイヤも1日に1往復のみ。
満席を心配したが、
車内はガラガラだった。

大正12年の夏、
最愛の妹トシの魂を追って
樺太を彷徨った宮沢賢治。
この地に多くの詩を残し、後に
『銀河鉄道の夜』へとつながった。
かつて長旅をした際に『銀河鉄道の夜』を
読みふけったのは懐かしい記憶。
儚くも美しい物語は、
異国を旅する気持ちと似ていて胸にしみる。
ストーリーはかなりあやふやになってしまったが、
彼が目にした景色を追ってみる。

少し眠くなりながら車窓からの景色を眺めているとドリンスクの駅に着いた。
ここはかつては落合という地名だった。
ホームに降りて車両を撮影していると、
低い警笛を鳴らしながら、
運転手が笑顔で手を振ってくれた。
列車が見えなくなると、
とても静かな場所だった。

つづいてバスに乗り換え、
スタロドゥブスコエという海岸を目指す。
なかなかこの名前が覚えられず、
何度もメモを見てはたどたどしい発音で
運転手に告げた。
かつての名前は栄浜である。

バスに揺られること15分、
小さな漁村に着いた。
すぐ目の前には砂浜が広がっている。
波打ち際を歩き、潮風に吹かれた。
今まで見た異国の海は煌びやかだったけど、
日本海のように少しもの憂げな海だった。
琥珀が採れることでも有名で、
琥珀らしい、オレンジの石をいくつかポケットにしまった。
宮沢賢治はこの海岸の情景を
詩「オホーツク挽歌」や童謡「サガレンと8月」
に描いている。

南樺太が日本領だったことから
ここ栄浜が最果ての地。
賢治はここで夜通し海岸を歩き、
トシを思いながら眠ったとされる。
銀河鉄道の夜には、白鳥の停車場が登場し、
それはこの少し先にある白鳥湖を指しているようだ。

銀河鉄道の夜。
大好きな物語の舞台を、
いまこうして旅しているのは
不思議な気持ちで、
もう一度、読み返してみると
きっとこの景色とリンクするのだろう。
帰ったら早速試してみたい。

この旅の終着駅もここに決めた。

いつ来るかわからない帰りのバスを待ちながら
短い旅と、
サハリンの夏の終わりを感じていた。

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