甘さと苦さと心細さと

ダマスカスはもう秋。朝夕はとても涼しく、
早朝の屋上部屋ときたらブルブルもの…。

 

「気をつけて」

午前5時、シーツに包まったまま荷物をまとめ、
熱いシャワーを浴びて宿を出た。
レバノンで知り合い、3日間行動を供にしたK。
早朝にも関わらず、バス停まで見送りに来てくれた。

「気をつけて」
“またね”や“バイバイ”ではなく、
この言葉で別れることが多い。

「ありがとう」
そのひと言だけを返し、バスに乗り込んだ。

数え切れない別れの中で、
それぞれの旅がつづいていく。

 

バスがない!?

シリアの首都ダマスカスから
ヨルダンの首都アンマンへの
直通バスがあることを宿のオーナーから聞いていた。

満席になるのが恐かったためこの早朝便を選択したのだ。
ところがチケットカウンターで聞かされた衝撃の事実。

「ノー バス」

なんですと!すでに満席なのかい??
英語がよく理解できないので理由は分からないが
とにかく今日はバスが走らないそうだ。
そして明日もう一度トライせよ、と。

いやいや、スマートに別れのシーンを演じてきたのに
「いやぁ、参っちゃいました…テヘ」
なんて頭を掻きながら照れ笑いで戻りたくないし、
もう気持ちはヨルダンへ行ってしまっている。

仕方ないセルビス(乗り合いタクシー)を使うか…。
運転手に声をかけると
「700シリアポンド!(約1750円)」
と、案の定予算オーバーの額を提示。
バスで!と決めていたので
ちょっきり500シリアポンド(約1250円)しか
財布には入っていない…。

「いやぁ、参っちゃいました…テヘ」
なんて頭を掻きながら照れ笑いで
彼らに財布を見せるも、
眉毛を大きく上下させながら
「話にならねぇな」と呆れ顔をされた。

ならば作戦その2。
帰るフリ作戦を決行した。
どうだ、この悲しげな背中!
来い、来い、ちょっと待ったコール!

…。

Oh、無言。
あっけなく見送られちゃったよ(泣)

マジでどうしよう?
すると、ひとりの男性が声をかけてきた。
事情を身振りで説明すると、
OK!と、500シリアポンドで手を打ってくれた。
捨てる神あれば拾う神あり。アッラーに感謝した。

 

危険な香り

ポケットからキーを取り出し、ついて来い!の合図。
早足の彼について行き、なぜか市バスに乗り込んだ。
まさかこれで行く気?
いやいや、どうやら自宅に車があるらしい…。
車はヒュンダイの普通乗用車で、タクシーの看板はない。

白タクですか、まぁ商談成立してるし問題ないっしょ。
彼の車に乗り込み、ドライブ気分を満喫していた。
15分も走るとなぜか道を反れ、住宅街へ向かっていく。
どこへ行く気だ?心配だったのでとりあえず
「アンマン?アンマン??」と後部座席で喚いておいた。

道端に3人の男性。
運転手がクラクションを1つ、
それを合図に彼らは立ち上がり、車に乗り込んできた。

え、この人たちもアンマンへ行くの?
全員手ぶらなんですけどぉ…。

 

誘拐されたかも…

さぁ、事態は急変。
危険センサーが作動しはじめた。
どっかへ連れ去る気じゃ…、
4対1じゃ分が悪すぎる…、
安易に信用しすぎたか…。
たかが200シリアポンド(約500円)を
ケチった(実際持ち合わせがなかったけど)ばかりに
スリルドライブ開始!!

 

最悪の事態をシミュレーションし、
闘争、いや逃走本能をフル回転させた。
ジャッキー・チェン、ブルース・リー、
彼らが食いつきそうな話題をふり、
笑顔を絶やさないように心がけた。
陽気でピースフルな日本人を演じて、
とにかく油断させよう。

 

結末は…

そんな心配とはウラハラに
順調にシリアの出国ゲートに着き、
そしてヨルダンの入国ゲートを通過した。

~ウエルカム トゥ ヨルダン~
彼らはホントに手ぶらでアンマンに向かった。
疑ってゴメンよ、
拉致どころか、出国手続きをサポートしてくれたし、
両替所にも連れていってくれた。
挙句には昼食までごちそうになっちゃって、テヘ(笑

はい、なんだかんだで
22ヶ国目「ヨルダン」に入国です。
首都アンマンには、その名に反して
ほろ苦い到着となった…。

 

↑あの拉致事件前に彼が泊まっていたというホテル。
追悼の意をこめてこの名に。

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