賽の目は「1回休み」

ダメだ、テンションが…。

ペトラに向かうバスの中で
胸を締め付けられるような感覚に襲われ、
ひとり旅が“独り旅”に変わったことを知る。

 

孤独なハイウェイ

砂漠を切り裂く真っ直ぐな道、
それはどこまでもつづく
孤独なハイウェイだった…。

昨夜、イスラエルで出会った
元ミュージシャンのSさんと語りあった。
年齢も同じで、旅立った時期も同じ。
このあとロンドンに向かい、バンドを組むという。
もう一度、プロのステージで勝負するために。

「夢を追いかける」それが彼の旅。
今朝目覚めると、すでに彼の姿はなかった。

何気なく窓の外を見ると、
ちょうどタクシーに乗り込むところだった。
「がんばれ」
心の中でそう呟き、そっとエールを送った。

 

「ペトラ」へ向かう

午前6時、静かな寝息の中で荷物をまとめる。
「ペトラ」へと向かうため。
中東最大のハイライトにも関わらず、
心は静かなままだった。
タクシーをかわし、セルビスを捕まえた。
ボッてくるバス代を笑顔で値切り、
荷物スペース付きの特等席を確保。

ずいぶん旅慣れたものだ。
でも、何かが足りない…。

ペトラまでは、バスで3時間。
料金は荷物込みで4.5ディナール(約500円)だった。
砂漠を裂き、空に向かって延びる
“王の道”をただひたすら走った。
淋しさと空虚な心が入り混じり、
溜息がこぼれる。

イヤホンで耳をふさいで、
歌詞の世界に逃げ込んでみた。
宿に着くも、出かける気分になれず
一番奥に陣取ったベッドに潜り込んだ。

 

時刻は正午。14人部屋は無人で、
みなペトラ遺跡を観光しているのだろう。
音のない部屋は、
窓から差し込む陽光と、秋の風が心地よかった。

 

過去はいつも美しい

夢を追いかける旅や夢を叶える旅。
自分は何を求めて旅をしているのだろうか?
旅にもし目的が必要なら、それはもう見つけた。
旅にもし結果が必要なら、それはもう見えている。
でも、何かが足りない…。

一度満たされると、人は弱くなる。
満タンになった心に隙間を感じ、
必死に補おうとする。

だから、
足りないくらいがちょうどいいのかもしれない。
満足感や幸福感はすべて過去の産物。
一番の高みにいるときは気付かず、
あとから「あのときは良かった」と顧みる。

だから、
過去はいつも美しい。
そんな過去と今を比較するから、
未来が色あせてしまう…。
あぁ、面倒な思考、非生産的、鬱、鬱、鬱。

ぶるぶるっと頭を振って、
そんなしがらみを捨てちまえ!
足りないことに酔ってるだけ。
今を見るピントがズレてるだけ。
怠惰だよ…もったいない。

こうやって文字にして
自分の気持ちを浄化していくと、
穏やかな心が帰ってくる。

「1回休み」

スゴロクでいえばそんなとこでしょ。
出た目に従っておこう。
明日こそ「ペトラ」の目が出るように
賽を振ろうよ。

 

旅のカケラ/slideshow

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