ノアの方舟に乗って

サヌアの旧市街には、
今も中世の町並みが残っている。

美しいデザイン、空に向かうミナレット(塔)、
神聖なモスク、そして迷路のような石畳の道。

 

 

ノアの息子・シェム

ヨーロッパにも、中世の町並みを残した都は各地に残っているが、
イエメンのような町並みは他に類を見ないという。

この旧市街は別名「シェム・シティ」。
由来は、旧約聖書に登場するノアの方舟にあった。
ノアの息子、シェムがサナアに始めて住み着いた人物だという。
なんともロマンを感じる話である。

バーバルヤマンと呼ばれる街の門をくぐると、
そこはもう映画の世界か、夢の中にいるような光景が広がった。
タイムスリップ、この言葉が一番しっくりくるだろう。
世界最古の摩天楼都市として、
世界遺産に登録されているだけあって
街全体が博物館のようだ。

 

世界最古の摩天楼都市

さて、イエメン建築について少し触れておこう。
主な建材は、土を固めただけの日干しレンガで、
鉄筋はまったく使われていない。
建物を補強するため、低層階には堅牢な石が使われている。

窓の部分には “カマリア窓” と呼ばれる
ステンドグラスが配され、その漆喰のデザインが
建物を芸術作品のように 美しく仕上げている。

サナアの建物が高くそびえはじめたのは、膨らむ人口を、
城壁の中に詰め込むための知恵。
高いものは7階にも及ぶという。
ひとつの建物の中に、同じ血縁の者同士が
10人から30人で部屋を分け合って住んでいる。

 

スークを歩く

 

迷路を彷徨い、スークと呼ばれる商店街で買い物をした。
最近はやたらと民族衣装を買ってしまう。
だからこんな格好で歩いている。
イエメン男性が頭に巻いている布と、
巻きスカートを購入。
どんどん荷物がかさばっていくが、
一期一会の旅だから気に入ったものは
ためらわないことにしている。

「君は男?それとも女?」
最近はそう質問されることが増えてきた。
髪が伸び(ふかわりょうスタイル)、
左耳にピアスを揺らし、
そして中世的なファッション。
鏡に写った姿を見ても、たしかに…と頷ける。

 

 

街を見下ろしたい

街を見下ろしてみたいなぁ。
そう思い、ミナレット(塔)に向かうも、今日は木曜日。
イスラムの国では、木・金が日本でいう土・日にあたる。
残念ながら扉は固く閉ざされていた。
あきらめきれず、空を仰ぎ見る。
ミナレットに負けないくらい大きな建物が目に飛びこんだ。

これだ!

その建物は民家だった。
うーん、相当のお金持ちに違いない。
敷地内に入り、住人を探すと、
推定25歳ほどの青年が現れた。
英語は通じないので、
身振り手振りで、屋上にあがって写真を撮りたい!
そう告げた。

彼はあっさりとOKしてくれ、
長い螺旋階段を案内してくれた。

屋上から景色は圧巻だった。
おもちゃ箱のような街。これはもう、
ノアの方舟ならぬ、ノアの方庭だね☆

 

移りゆく時間の中で

4000年という時の長さを
一瞬のシャッターで収めてしまうのは
少し忍びない気がした。
シュクラン(ありがとう)と、固い握手で彼と別れ、
再び旧市街の住人と化した。

移りゆく時間の中で、変わらないものがあるとしたら、
この街の佇まいと、ここに住む人々の優しさだろう。
歩みを止めて、しばしの時をとめて。
小さな軒先に腰を下ろして町を眺めた。

 

旅のカケラ/slideshow

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