標高3000mのアタック

イエメンの首都サナア。
首都といってもこれほど落ち着いた街は珍しい。

夜明け前にアザーンが響き、新しい朝を告げる。
道行く人もみな優しく、とても居心地がいい。

 

シバームとコーカバン

サナアから約50km離れた場所に双子の町がある。
「シバーム」と「コーカバン」。
1ヶ所に集団で生活する山岳民族らしくなく、
岩壁の上と下に同じ民族が住んでいる珍しい町である。
1000年にわたり、それぞれの役割を決めて
山の上と下で助け合っているという。
ちなみに麓のシバームは、農業と商業。
山頂のコーカバンは軍事である。

ダッバーブという乗合ワゴンでこの町を目指した。
英語は通じない。
「シバーム、コーカバン」と双子の名前を連呼して
目的地へ向かうワゴンを探す。
人のいいイエメン人。
一緒にワゴンを探してくれ、
運転手にことづてをしてくれた。

 

スーラ?

ワゴンとトラックを3台乗り継いで、
シバームにたどり着いた。
岩山の麓にレンガ造りの家々が立ち並び、
絶壁を仰ぎ見ると、そこにも人々の営みがあった。
石の町というべきか。
赤茶色したかわいらしい家々、
道を歩いていると子どもたちが駆け寄ってくる。

「スーラ、スーラ」
はて、何のことだろう?
首をかしげていると
カメラを指差し、ポーズを決めはじめた。
そうか、写真か。OK、OK。
イエメンの子どもたち、いや大人たちも写真が大好き。
撮っても撮ってもキリがないくらい。

 

トレッキング

シバームの町を抜けると、
大きな岩壁に突き当たる。
ここを登らなければコーカバンには辿り着けない。
ガイドブックによると標高差は350mと書いてあり、
数字だけみるとたいしたことないように思えた。

ところが。実際に目にすると、溜息が出るほど果てしない…。
またトレッキングかよ…。
急な岩山を強い風に吹かれながら登った。
シバームの町が箱庭のように小さくなっていく。
岩壁にサボテンが茂り、荒涼とした景色だ。

約1時間後、大きなゲートをくぐり
堅固な砦のような家々が並ぶ町が開けた。

 

コーカバンの出会い

風が一層強くなった。
すでに標高は3000mを越え、肌寒い。
あてもなく町を歩いていると、
壁の向こうから賑やかな声が聞こえてきた。

なんだろう? 門をくぐり、その様子を覗いてみると
どうやら学校のようだ。
おそらく中高生だろう子どもたちが
グランドでバレーボールをしていた。

ずっとバレーをしていたので、身体がうずき、
仲間に入れてくれ、と彼らのもとに駆け寄った。
「ウエルカム」
突然の珍客を歓迎してくれた。
頭上にボールが上がる。
カジュ、カジュ!
名前が呼ばれる。
期待に応えるべく、力いっぱいアタックを打ち込んだ。

歓声が大きくなり、仲間たちからハイタッチの祝福を受けた。
あぁ、気持ちいい♪
時間を忘れ、標高3000mということも忘れていた。
ゼーゼーと息を切らせながら、ボールを追いかけ
力いっぱいジャンプした。

 

西日のシルエット

西日が強くなり、風も一段と冷たくなった。
子どもの頃、真っ暗になるまで
空き地でサッカーや野球をしていた、
あのときと同じ瞳になっていただろう。

シュクラン!(ありがとう)
西日でシルエットになった彼らに別れを告げた。
もう会うことはないかも知れないが、
こんな遠くでバレーができたことは忘れないだろう。

帰り道は荷台で震えた。
乾いた汗と、吹き付ける風。
運よくヒッチハイクに成功し、
サナアの街まで荷台に乗せてもらえることに。
風を切りながら、カーブで振り落とされそうになりながら
双子の町を見送った。

あぁ…っ!

頭に巻いていたお気に入りのガムチャが
風に飛ばされた。
ひらひらとたなびき、
イエメンの絶景に消えていった。

でもなんだか不思議と気分が良かった。

 

旅のカケラ/slideshow

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