峠の向こうの出会い

パキスタンの旅は忙しい。
15日ビザしか取れなかったことと、
中国ではぐれた相方ヒロと
インドで合流する約束があるためだ。

でもパキスタンの旅は、様々な出会いを生んでいる。

 

ギルギットを旅立つ

昨日から新コンビとして行動を共にしているトモ。
年齢は32歳で、今年の1月に日本を旅立った。
東南アジアから中国、そして中央アジアに立ち寄って
パキスタンへと下ってきた。この後はインドへ行くという。
しばらくの間ルートが重なることと、
お互いに移動ペースが速いことで気が合っている。

さて、目指すはチトラールの先にある「カラーシュ・バレー」。
ここはカラーシュ族が住む谷で、独自の宗教を信仰し、
「異教(カフィール)徒の地=カフィリスタン」と呼ばれている。
国境を越えたアフガニスタンにもカラーシシ族が住んでいたが、
今世紀初めまでにはイスラムに改宗したため、
パキスタンに暮らすカラーシュ族が唯一の存在となったとか。
白い肌、青い瞳の特徴を持ち、古代マケドニアの将軍、
アレキサンダー大王の軍隊の末裔という伝説もある。

 

マスツージ

そんな少数民族に会いに峠を越える。
カラーシュ・バレーへは、
未舗装の崖道がかろうじて1本走っているだけの
シャンドール峠を越えて行くため、
途中の村やチトラールで2泊しなければ辿り着かない。
今日はギルギットから約250kmの距離にある
「マスツージ」まで行くことにした。

もうお馴染みの揺れる&跳ぶバスで、
断崖絶壁を激しくクラクションを轟かせながら走った。
窓にはこれまたお馴染みの絶景が広がり、
12時間という移動時間もまったく飽きさせない。
トモとふたり、「スゲー」を連発しながら
窓からカメラを突き出して、シャッターを切った。
パキスタン人はとても写真好きの民族である。
カメラで撮影をしていると、
「俺も撮ってくれ」と、親指で合図を送ってくる。

パシャリ。

撮った画像をみんなでワイワイ言いながら眺め、
もっともっととせがむ。
本当に純心で、憎めない連中だ。
もう80を超えているようなおじいさんまでもが
夢中になっているから微笑ましい。

 

ごちそうさま

峠の茶屋、いやチャイ屋に立ち寄り、
甘い1杯をすすっていると、
店の奥から若者が手招きしてした。
彼らのテーブルには、チャパティ、カレー、ポラオ(炊込ごはん)
が並んでいてとても美味しそう。
実は節約のためパンを買ってあったので
昼食は車中で済まそうと思ってチャイだけをオーダーしたのだ。

まぁ座れよ、両手で席を指差し、
つづいて手のひらを空に向けて、
料理の上を通過させた。

えっ!?食べていいの(笑

あぁ、もちろん。全部タダでいいよ。
彼らの輪に加えてもらい、好意に甘えることにした。
金持ちのイメージが強い日本人なのに
彼らは「そんなの関係ない」って顔で仲間に入れてくれる。
日本人である前に、KAZとして受け入れてくれるのだ。

チャパティをちぎり、カレーをひたす。
ポラオをかき混ぜながら口にかき込んだ、旨い。
周りはオールパキスタン人。
カメラを片時も放さない日本人が珍しいのか、
しきりにかまってくれる。

「シュクリアー(ありがとう)」と、
何度もお辞儀をしながら、
美味しい、美味しいと遠慮なく食べつづけた。
バスに戻り、景色を眺める。
いつしかシャンドール峠に差しかかり、
道が悪くなるに比例して、
ありえない景色が広がっていく。

 

再びの3人旅

途中、小さな村に立ち寄った。
何気なく窓から顔を出していると、
見覚えのある青年を見つけた。

「おーい、KAZだよ!」

大きな声を張り上げて、彼を呼んだ。
彼の名はカズマ、25歳。
パキスタンで2度彼を見かけている。
1度目はバスの車窓からで、
2度目はフンザの宿にふらっと現れた。
ちょっとヤンチャな風貌だけど、
カメラが好きで、すぐに打ち解けた。

「何してるの?」(KAZ)
「いや、この村に泊まってて」(カズマ)

どうやら彼は乗合ジープをつないで
この村まで来たそうだ。
そして明日の早朝に出るジープでその先を目指す予定だった。

「このバス、マスツージまで行くよ」(KAZ)
「えっ、マジで!!乗れっかな?」(カズマ)

バスの屋根で荷物を積んでいた運転手をつかまえ、
大きなザックとともにバスに乗り込んできた。
世界は広くて狭い。
いろんな場所で、いろいろな物語がつながっていく。
同じ宿に泊まり、同じ目的地を目指すことになった。
再び3人旅である。

彼とはもう一度会いたいと思っていたので
願ってもない偶然が訪れた。
気の合う仲間は、いつも同じ方向を向いている。
だから何度でもめぐり会うのだろう。

 

旅のカケラ/slideshow

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