星に願いを(後編)

※長い話になってしまったので2部構成に。
ぜひ、同日の前編を読んでからこの後編にお進みください。

「じゃあ、ここで降りろ」(運転手)

あぁ、降りてやるよ!と、啖呵を切れたらなぁ…。
タクシーはおろか、誰も通らないような道。
もしここに残されたら、
とんでもないことになるのは痛いほどわかっている。
出発前から足元を見られっぱなしで悔しい。

 

限りなくグレーに近い旗

「マーさん、ちょっと粘ってみていい?」(KAZ)

頭をフル回転させ、言葉と態度を選ぶ。
血の温度が上昇したのを感じながら、
それでも気持ちは不思議と冷静だった。
運転手に媚びながら、あれこれと単語を並べる。
そして財布を後ろ手に持ち、
大きい紙幣を抜き取ってポケットに忍ばせた。

横目でチラリとマーさんに合図を送ると、
なにをしたいのかを、すぐに感じ取った様子だ。
おもむろに財布を運転手に渡し、
「これが全財産だ」と、
降伏の白旗を振った。

限りなくグレーに近い旗だけど(笑
財布の中には多過ぎず、
少な過ぎない1011ソム(約3500円)。
そして100円程度の中国元と3ドルを残しておいた。

 

もう、金はない

運転手は渋い顔で金を数える。
彼のいい値の3分の1だ。
もちろん納得はしなかった。

「じゃあ、街に戻ったら銀行へ行って
残りの金を下ろして来い」(運転手)
「いや、もう金はない。あとは日本に帰る金だけだ。
どうしてもダメだというならここで降りるよ」(KAZ)

最後のカードも切った。
運転手が元来た道を戻ることは明白だ。
だったら1000ソムだけでも手にして帰りたいはず。
ここでふたりを捨てていっても、彼には何の得にもならない。
荷物をまとめるフリをしながら、彼の返事を待った。

もちろん、返事はOKの二文字。(渋々だけど)
気の毒に思ったのか、帰り道にクッキーとソーセージ、
そしてスプライトを買ってくれた。
さらに宿泊代として中国元とドルも返してくれた。

演技をし過ぎて悪かったかな?

でも、今日だけで3000ソムも稼げたんだから充分でしょ。
再び8時間、彼の車で揺られた。

 

どんな夜空よりもキレイだった

その帰り道、空には満天の星が煌めいていた。
そのまま見上げていると、どんどん星の数が増えていくようだ。
流れ星がひとつ、ゆっくりと夜空を滑っていく。
口をポカンと開けたまま、窓に張り付いて星を数えてみた。

いままで見たどんな夜空よりもキレイだった。

この空が見れたのだから、今日の旅も無駄じゃなかったはず。
先の見えない旅、星に願いを―。
ちょっとロマンチックな気分で、
夜空にまどろみ、目を閉じた。

 

旅のカケラ/slideshow

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