駆け抜けて、タンザニア

午前6時、夜明け前の街をひとり歩く。
ビザ代に50ドルも払ったのに、
たった3日でタンザニアを脱出することにした。

だって、人が嫌なんだもん…。
インドもさんざんだったけど、
タンザニアのしつこさ、タチの悪さ、面倒臭さは
それ以上かも知れない。
きっと相性が悪いんだ、そう思うことにしてさっさと逃げ出そう。

 

タンザニアを脱出する

 

2日前に購入した「モシ→ムベヤ」のバスチケットは、
48000シリング(約4000円)とべらぼうに高かった。
でもこれで一気に国境の近くまで行けるのだ。
地図の縮尺を指でなぞってみると、軽く1000キロはある。
いったい何時に着くのかが心配だ…。

午前7時30分、予定よりも30分遅れてバスは出発した。
バスが姿を現したときは
「おぉ!キレイなバスじゃん」
と喜んだのも束の間、車内に入って落胆に変わった。

2列、3列の5人がけシート…。狭いよ。
しかも、タンザニア人は大柄な上に
ガバっと足を広げてシートに座るから、
幅寄せがひどい!

試合開始早々シートの1/3を奪われ、
窓に身体を押し付けて過ごす羽目になった。
それでも車窓から見えたキリマンジャロに癒され、
その雄姿を心に焼き付けた。

 

今買う必要ないでしょ!?

タンザニアは緑豊かな国だった。
ケニアは広大なサバンナが広がっていたが、
こちらは深い森。
道は起伏に富んでいて、
山間の小さな集落をいくつも通り過ぎた。

大きな街では乗客の乗り降りがあったが、
食事休憩というものは一切なかった。
バスが停車すると、一目散に売り子が駆けてきて
パイナップル、バナナ、卵、ピーナッツなどが車窓を彩る。
皆必死の形相で、商品を頭上高く掲げ
窓をこじ開けようとする。
食べ物ならまだしも、なぜか歯ブラシやハンドルカバー、
なかには大きなラジカセまで…。
今買う必要ないでしょ!?
と、ツッコミたくなる光景だ。

彼らと目をあわせないように、そっとカーテンを閉めた。
空腹と闘いながらいくつもの街をやり過ごした。
ときどき地図を見るが、ゴールのムベヤは果てしなく遠い。
時計の針は午後7時を回り、夜がはじまった。

 

 

 

アフリカひとり旅

つい先程、「ムベヤまで300km」と書いてある看板を見つけてしまい、
深夜の到着を覚悟した。
今はアフリカひとり旅。
できれば深夜の宿探しは避けたかったのに…。

午後10時を過ぎると、車内の乗客はほんの数人になった。
真っ暗な車内に、ブロロロっとエンジンの呼吸だけが響く。
窓の外を眺めても真っ暗で、車窓に映る自分と目が合うくらいだ。
手元にある緑のチケットは、
『銀河鉄道の夜』でジョバンニが握りしめていた、
どこまでも行けるチケットと同じ色。
いっそ、夜を越えてくれればいいのに…。

 

日付が変わった深夜1時、ムベヤバスターミナルに到着した。
「フィニッシュ?」
運転手にそう尋ねると、
ああ、ここまでだ、と大きく頷いた。
固くなった身体をほぐし、大きなザックを担いで歩き出す。

 

即席ベッド

ターミナルに手ごろな宿があったがあいにく満室…。
ちょっと恐かったけど、ターミナルを出て
周囲にある宿をあたることにした。
安宿はどこも満室か、すでに門に鍵がかかっていた。

午前2時、あと4時間後には始発のバスが出る。
そこで、もう1度満室だった宿に向かい、
レセプションで寝かせてくれないか、と頼んでみた。
料金は半額の5000シリング(約400円)、
ソファにマットを敷いて即席ベッドを作ってくれた。

18時間のバス移動で身体はくたくた。
ようやく横になれたものの、窓が全開だったため
枕元に蚊柱ができていた…。

シーツを頭まで被り、汗だくになりながら
プォーンという奴らの羽音と闘った。
もう、いいよ。タンザニアは懲り懲りだ…。

 

旅のカケラ/slideshow

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です