楽園

“飽きる”を“馴染む”という言葉に
置き換えてみよう。
ちょっと世界が広くなり、
少し得した気分になる。

 

グラン・ベ

モーリシャスで過ごす週末、
ローカルバスに揺られて海を見に行こう。
ここポートルイスから「グラン・ベ」へは、
片道およそ1時間、
運賃は26ルピー(約100円)だった。

グラン・ベは、
スプーンでえぐったような半円形の湾で、
ビーチに面してレストランやカフェ、
洒落たヴィラが軒を連ねていた。
神様が創った島がモルディブなら、
ここは神様がお手本にした楽園。

耳を澄ますと、ささやくような波音が聞こえ、
白亜のビーチがつづいていた。
ラグーンは、
水色からエメラルドグリーンへのグラデーション。
水平線を越えて、空へと滲んでいく。
今まで一番キレイな海だった―。

 

木陰を選びながら海岸沿いに歩く

サンダルを履いていたので、
そのまま遠浅の波打ち際を歩いた。
チャパ、チャパっと、跳ねた水の音が心地いい。
週末にもかかわらず、人もまばらで
いつものギラギラした視線は感じない。
アフリカとはまったく別の
南の楽園に来てしまったようだ。

日差しは強く、じりじりと身体を焦がしていく。
なるべく木陰を選びながら海岸沿いに歩いた。
このまま「マルールー岬」を目指そう。
モーリシャスの最北端に位置し、
ここからおよそ5km。
バスで15分ほどだろうが、
“鯨岩”を見ながら、歩いて行くことにした。

リュックからiPodを取り出し、
音楽を聴きながら歩く。
すでに聞き飽きた曲ばかりだが、
“飽きる”を“馴染む”に変換してみる。
聞き馴染んだ曲たち、
うん、ちょっとほっとする。

 

マルールー岬

長い距離も歩き馴染み、
どこまでも青い海、青い空も見馴染んだ。
飽きるってのは気の持ちようで、
すべては馴染んでいく、自分のものになっていく。

 

1時間くらい歩いただろうか、
冷たいコーラを流し込み、
木陰に座って読書をした。
村上春樹の『海辺のカフカ』。
いやいや、タイトルは偶然(笑

 

海は太陽の傾きによって色を変える。
青が濃くなったり、緑が強くなったり。
雲がかかると、ちょっとさびしい色になるし…。
空と海は合わせ鏡のように、響きあってるようだ。

 

時計を見るとちょうど正午だった。
小腹がすいたが、ここは我慢。
リゾート地での食事は高くつくから。
もう1本コーラを買って、空腹をごまかした。

「マルールーへ行きたいんですけど…」
木陰で休んでいたおじさんに尋ねた。
流暢なフランス語で回答をくれた。
おじさんの指先をたよりに、再び歩き出す。
もうバスを使おうか、と
歩き馴染み過ぎたころ、
岬に建つ教会が目に飛び込んできた。
絵本の中にあるような
赤い屋根のかわいい教会。

 

ひとりぼっちのリゾート

着いたよぉ…
リュックを降ろし、海の中へと入っていった。
水は生あたたかく、
すぐ足元に魚の群れが遊んでいた。
小舟が気持ちよさ気に浮かび、
申し訳程度のさざ波が耳をくすぐった。

ここがモーリシャスの最北端。
小さな島国だが、端っこまで来ると
ちょっとした征服感がある。
セルフタイマーで、端っこ記念写真を撮り、
しばらく読書をした。

パラパラと雨が落ちてきた…。
慌ててリュックを背負い、バス停に走った。
屋根の下で雨音を聞きながら
なかなか来ないバスを待った。
となりのトトロのワンシーンのようだw

焦れて、焦れて待ち馴染んだ頃、
真っ赤なバスに拾われた。
ひとりぼっちのリゾートも悪くないな、
そうつぶやきながらも、空腹と闘っていた…。

 

旅のカケラ/slideshow

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