遠い空

今日も移動日。
午前5時のまだ暗いバスターミナルにいる。
背中には重たい荷物、
そして周囲にはしつこい自称ガイドの群れ。

 

あぁ、しつこい

ジャパン?
カモン、カモン!!
彼らは顎をしゃくって群がってくる。

「ノー!ほっといて!!」
しつこさはハエ以上…。
僕らが歩く後はエチオピア人の列ができる(苦笑)

手の甲であっち行け!をすると
マネー!! ペン!! フード!!
と、手が伸びてくる。

あぁ、しつこい、しつこい…
快適な朝を返してくれよ!!

バスに乗り込むとどっと疲れが押し寄せてくる。
客引きとのバトルに、チケット&座席の争奪戦、
ラジオ体操から帰ったあと以上に身体はしんどいさ。

 

遠い空を見続けた

だから死んだように眠るんだね。
こんなにも狭く、飛び跳ねる車内ですら…。
バハルダールから「ラリベラ」へ。
今回の移動も過酷だった。
未舗装の道を延々と14時間走った。
その間に食事休憩すらなく、
空腹と闘いながら、遠い空を見続けた。

長い時間じっとしている忍耐力はついた。
ただそれは思考を停止している状態、
もしくは妄想している状態なので
虚ろな表情で生気がない。

iPodをいじるのもおっくうで、
音楽が切れてもそのまま放置していた。
バスは揺れ、空も揺れた。

でもときどき、美しい景色に心が動き、
おもむろにカメラを出す。
窓を開け、シャッターを2、3回切って
電源をオフ。
そして動作も再び休止モードになる。

一緒に行動している仲間たちも
すっかり無口だ。
たまに言葉を交わしても
「遠いね」と「お腹へったね」
の確認作業だけである。
でも、それでいい。
過酷な移動のときは押し黙ったまま
ひとりの世界をさまようのが一番楽である。

突如、隣の席にいたおばあちゃんが嘔吐した。
しかも、なぜかこちらを向いて…。
腕が、服が“それ”で染まった。
おいおい、勘弁してよ、といつもなら思っただろうが
休止モードに入っているので取り乱さなかった。

とりあえずタオルで身体を拭き、
持っていたペットボトルを彼女にあげた。
辛いもんね、このバス。
みんな闘っているのだ。これくらいで動じない。

 

寒空の下で僕らは歌った

まんじりともせず、14時間が過ぎた。
「ガシャナ」という町がバスの終点だった。
チケットを買った際は、ラリベラ行きだと豪語したくせに
ここが終点だという。
しかも明日もバスはないと…。
ここでまたひと悶着し、支払った72ブル(約720円)のうち
15ブル(約150円)を返してもらった。

うなだれながら宿を探す。
町に宿は2軒しかなく、しかも満室だという。
いい加減なバス会社を恨んだ。
さすがに野宿するには寒すぎるので、
地元の人に車を出してもらえないか交渉した。
「500ブル(約5000円)」
ラリベラまではおよそ60km、
ちょっと高いが居合わせた欧米人も巻き込んで
1人60ブル(約600円)で割り勘した。

登場した車は5人乗りのトラックタイプ。
ドライバー、通訳(自称)を除くメンバーは
日本人3人に、欧米人5人。
さあ、どうする?

「いいよ、荷台で」
ダウンを着込んで飛び乗った。
誰もがみな、「荷台に乗る」と志願したが
ここは日本人3人で行こう、と決めた。

欧米人のひとりがブルゾンをかけてくれた。
サンキュー!
いいんだよ、星空を見ながら楽しむから♪
3人で「ピクニック」を歌いながら
荷台で風に吹かれた。

あまりに大声で歌っていたものだから
「どうした!?」
と、車は急停止し、窓から顔が。
いや、気持ちいいから、歌ってた(笑

車内からドっと笑い声がこぼれた。
丘を越え行こうよ、口笛吹きつつ
空はすでに星空 ラリベラを目指して♪
約2時間、
寒空の下で僕らは歌った。

 

旅のカケラ/slideshow

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