星を目指して歩いている気分だった。
午前2時半、山小屋を出発し、
キナバル山頂を目指す。
標高4095m、
それは普段着の登山の領域を外れていた。
星空の登山
昨日の岩の階段地獄から一転、
今日は壁が待ち受けていた。
山小屋から山頂までは約3kmの行程だが、
その大半をロープ片手に壁を登って行くから辛い。
傾斜45度は言い過ぎかもしれないが、
星明かりの下、
ロッククライミングは正直荷が重かった…。
もし滑ってロープを離したら、
暗闇の中、斜面を滑り落ちて死ぬ!
足の親指にチカラを込め、
岩をつかむ気持ちで前に進んだ。
昨日よりもさらに1歩の重さを感じながら。
ベッドライトの明かりの列はまるで聖者の行進。
一列になって星を目指して歩いている気分だった。
昨日からの疲れで、
たった100mの距離が絶望的だった。
もう、ホントにここが限界!
そう何度も呟きながら、
それでもわずかな歩幅を刻む。
わずか数センチでも、
頂上までの距離を剥ぎ取る気持ちで、
奥歯にチカラを込めた。
限界の向こう側
何度も休憩し、一口水を流しこんでは、
「エネルギーに変われ!」
と、祈った。 動け、この両足!
平らな場所をみつけて仰向けに寝転んでみる。
流れ星が1つ空からこぼれた。
岩肌の冷たさ、空の近さ、全身の痛み、浅い呼吸…。
「あぁ、生きてるんだなぁ…」
と、しみじみ実感した。
限界はとっくに超えていたけど、
一度きりの魔球を投げ込む気持ちでいた。
立ち上がる、数歩進む、
膝に手を添えて体重を預ける。
ハァハァハァ、
呼吸でリズムを刻む。
一番高い場所
4時間後、一番高い場所にいた。
やればできる!
這いつくばりながらも
気持ちは天下を取っていた。
そして御来光。
ほら、やっぱり晴れたね♬
イヤホンを取り出し、一番似合う曲を聴いた。
ここはスピッツではなく、 テイラー•スウィフトの、
「We Are Never Ever Getting Back Together」
だった。
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