ROUD TO RADAKH ~あるがままに~

約2時間の仮眠から覚めると、身体の節々が痛かった。
高山病対策に、薬と大量の水を摂取して出発を待った。
空には無数の星が煌めいている。

 

2日目、スタート!

午前5時、バスは動き出した。
残りレーまでの距離は約400km。
昨日130km走るのに9時間を要したことを考えると
とても1日で走れる距離じゃないのだが…。

激しい揺れに身を任せていると、
しだいに眠気へと変わる。
最近はこの揺れがとにかく心地いい。
パンチドランカーのように、揺れに“酔う”のだ。
うとうととまどろんでいると、
ガツン、窓の桟に頭をぶつけて目が覚める。
こんなことを繰り返してるうちに、
頭に小さなコブが3つも出来てしまった…。

 

唯一の道

車窓に広がるのは、荒涼とした岩山。
その間を縫うようにバスが走る。
ほんの1m横にずれれば、奈落の底…。
誰がこんな道を作ったのだろうか?
この道がレーへの唯一の交通手段なので、
大きなトラックと何度もすれ違い、
そのたびに谷底を見下ろして肝を冷やした。

3時間置きにチャイ休憩をし、
運転手はターバンを巻きなおして気合を入れる。
6時間、9時間、12時間…。
ほとんど景色は変わらない。

300、200、100kmと、
レーへのカウントダウンを知らせる標識だけが楽しみだった。
標高5600m付近、ついに頭が痛くなりだした。
バスに酔ったか、油の匂いにやられたか、
それとも高山病のはじまりか…。

財布に忍ばせている高山病の薬「ダイアモックス」を飲み、
水を摂取して、大きく深呼吸した。
朝日に感動し、日中の強い日差しを浴び、
午後の青く澄んだ空に微笑んだ。
やがて陽は傾き、夜のとばりが降りはじめる。
いつになったらレーに着くのか…。

 

思考停止寸前…

出発からすでに15時間、体中が悲鳴を上げている。
何も見えない車窓を見つめ、
こま切れの空想に耽る。
「ザックの荷物には何が入っていたかな?」
「もしパソコンが壊れたらこの先どうなる?」
「日本に帰ったらまず何を食べようか?」
1つのことを考えると、時計の針が1時間経過する。
何も答えは出ず、ただ同じことがぼんやりと頭を巡る。
なんだろう、この感覚って…?

思考が麻痺しているのか、
何か悟りに近いものが開けたのか?
ただ、時間の流れが気にならなくなった。

 

あるがままに

これが一番説明のつく言葉だ。
インドは永遠の国。
生も死もすべてが自然の流れの中に存在し、そして繰り返される。
だからこそすべてが無限なのだ。

「あるがままに」

この感覚こそインドの教えじゃないのかな?
そう思うと心が静かになり、ゆとりさえも生まれる。
ひたすら長いこのバスだって好きになってくる。

午後10時、ようやくレーに着いた。
身動きひとつ取れない車中で17時間、
昨日からの分を合わせれば26時間の缶詰。
身体はひどく疲労したが、心は元気だった。
憧れだったチベットを踏みしめこう呟いてみる。

「LET IT BE」

あるがままに、あるがままに。
激動のチベットを、まっすぐに感じてみたい。

 

旅のカケラ/slideshow

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