STARTING OVER ~前編~

えぇ、マジで…。
不安が的中!恐れていた事態に陥ってしまった。
街中のレンタカーが予約でいっぱいだと言う。

昨日の夕方、南アフリカのケープタウンに到着した。
アフリカの旅の終着駅である。
これまでつづけてきたテレビ番組とラジオ番組が
ここで最終回を迎える。
ラストシーンは「喜望峰」、これが合言葉。

 

FULL BOOK

ケープ半島の先端にある喜望峰、ここへのバスはなく、
ツアーに参加するか、タクシーやレンタカーで行くのが一般的。
ツアーやタクシーじゃ、寝てたってたどり着くわけで、
「あっ、もう着いたんすか?」
なんて、目を擦りながらのゴールじゃカッコつかない…。
だからレンタカー!!
最後は自らの力でどうしても決めたい。

なのに…。
まさかのFULL BOOK(予約でいっぱい)、
半泣き状態で手をこまねいていた。
宿のオーナーに「なんとかして!」泣きつき、
電話帳に載っているレンタカー会社を片っ端から
当たってもらった。

すると、1軒だけ「車がある」と返事をくれた会社があった。
喜び勇んでオフィスに向かうと、
用意できる車は2人乗りだと言う…。
実は喜望峰へは5人(日本人4人+韓国人1人)
で行く予定だったので、これでは定員オーバー…。
仕方なく、空いていた原付も借りて
車(2人乗り)+原付2台、という編隊を組むことにした。

ところが!
神様っているんだね!?
最後まであがく人は見捨てないようで、
手続きをしてるその間に、なんとキャンセルが1台出た☆

“TAZZ”という日本では販売されていないトヨタ車で、
1日205ランド(約2050円)と破格の安さ。
車内はちょっと狭いが、有り難さも一緒に詰め込んで出発した。

 

 

サイモンズタウン

午前9時、ドタバタの中でラストランが始まった。
ケープタウンから喜望峰まではおよそ90km。
街を出てしまえば1本道なうえ、右側通行、右ハンドルと
海外で初めての運転も実にスムーズ。
途中のスーパーで食料を買い込み、
まずは「サイモンズタウン」を目指した。

サイモンズタウンは、ケープ半島を南下するにあたって
最後の街、という感じで、鉄道もここで終点を迎える。
街並みは白亜の建物が並び、
紺碧の海に面していてリゾートの香りがした。
南アフリカは、どこも街並みが素晴らしく
アフリカの土っぽいイメージが微塵も感じられない。

 

ボルダーズ・ビーチ

このサイモンズタウンのすぐ隣に「ボルダーズ・ビーチ」がある。
アフリカン・ペンギンのコロニーで有名な場所で、
ここのペンギンたちは人を恐がらず、
彼らの間近で海水浴ができるのだ。

じっと身体を固くしてつっ立っている彼らに近づくと、
円を描くように首をかしげながらこっちを見てくる。
どうやら30cmが許容範囲のようで、それ以上近づくと、
固そうな口ばしで威嚇をしてきた。
動物園や水族館でしか目にしたことがなかったペンギン。
その愛くるしい姿に心を奪われた。
歩くときはヨタヨタ、風が吹くと寒そうに身を縮める。
岩の上で甲羅干しをしてる姿は置物みたい(笑

ただし、ザブンと水に潜ると、
驚くような速度で水の中を滑るように移動していた。
ひとしきりペンギンに歓喜の声をあげ、
ペンギンビーチで昼食を摂ってからラストランを再開した。

 

ラストラン――

世界一周の旅ではあるが、
喜望峰への思い入れはとりわけ強い。
テレビ番組の最終回のために、
ビデオカメラを回しながら車を走らせているのだが、
自然とコメントはこれまでの旅の回想になる。

アジア、中東、アフリカ…40の国々。
そして、旅の相方ヒロともここで別れを迎える。
よし、運転を代わろう!
ハンドルを握り、クラッチを踏み、ギアの入れた。
そっとアクセルに力を込めると車はそろそろと動き出す。

 

ヒロに曲をリクエストし、
助手席でギターを奏でてもらった。
この旅で生まれた曲たち…。
10分も走ると、喜望峰自然保護区の入場ゲートに差し掛かり
リゾートから大自然へと景色がシフトチェンジした。
半島の先端へと力強くうねる道路。
アフリカの果てがすぐそこに迫っている。

 

車内は言葉少なになり、神妙な面持ちが見て取れる。
それぞれの旅を振り返っているのだろう。
喜望峰ってそんな場所。
旅の中で見つけてきた感情を今は心でギュッと凝縮して、
まもなく迎えるゴールで一気に空に放ちたい!
そんな気分。

ドキドキと胸は高鳴り、
でも、終わってしまう何かに淋しさが交じり合った。

ラストラン――

アクセルを踏みしめ、終わりとはじまりを噛み締めた。

■ボルダーズ・ビーチ
入場料:30ランド(約300円)
■喜望峰自然保護区
入場料:60ランド(約600円)

 

旅のカケラ/slideshow

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