フユタビ ’15(コーカサス編) ♯10 Sterting Over

「カズー」
約束の時間にセドラックは迎えに来た。
これで3日連続、彼の車に乗る。

 

別れの朝

「昨日が嘘みたいだ。
神様がまたおいでって言っているよ」

雪の予報は大きくハズレ、
青空も見えている。
空港までの道中、
昨日の悪天候ぶりを振り返り、
ふたりで大笑いした。

いつの間にか英語がスラスラ話せて
通じ合っていることに驚いた。

今朝はエレバンの街をひとり歩いた。
アララト平野の南東に位置する
アルメニアの首都で、その歴史は
アルギシュティ1世によって要塞が築かれた
紀元前8世紀にまで遡り、
バグラト朝の中枢として栄えてきた。

セントラルをぐるっと回り、
オペラハウスを目印にカスカードを目指す。

 

この景色を忘れない

街が一望できるカスカード。
普段はエスカレーターで上ることができるようだが、
年明けだからか、大雪のせいか、稼働していない。
仕方ないので、雪に埋まった階段を
一歩ずつ慎重に歩いた。

現代アートの街のようで、
途中にたくさんのモニュメントを目にした。
雪が深く、なかなか歩きづらかったが、
白い息を吐きながら30分、
展望台に到着した。

息がきれた。
やったね、やりきったね。

街を見渡し、大きく伸びをする。
旅の終わりを、
誰も歩いていない雪のうえに刻んだ。

Sterting Over
さぁ、日本に帰ろう!

ホテルの近くに雑貨店を見つけた。
アルメニアではほとんど
買い物をしていなかったので
陶器や人形など、
残ったお金を使い切って店を後にした。

 

きっとまた来るよ

―――車は順調に走り、
予定よりもずいぶん早く空港に到着した。
セドラックと固い握手をし、
旅の無事をと、目を閉じて
祈りの言葉をくれた。

荷物をかつぎ、彼の車を見送ると
なんだか寂しさがこみあげてきて、
ひとりぼっちの心細さを痛感した。

息が詰まり、呼吸が浅くなる。
この旅があまりに幸福すぎて
離れがたい気持ちがそうさせるのだろう。
たくさんの優しさに感謝したい。

きっとまた来るよ。
さようなら、アルメニア。

旅のカケラ/slideshow

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