エピローグ#05  シャガールみたいな青

 

マルセイユからモナコを経てイタリア国境までの
地中海沿岸はコート・ダジュールと呼ばれている。
ニースのその代表的な街でフランス人の憧れの場所である。
街を歩いていても優雅な空気が漂っていて
喧騒とは無縁の世界を感じてしまう。
ニースに来て4日目、ようやくこの街を観光する。

 

朝の市場

宿のすぐ前がメインストリート。
トラムが走っているこの通りを南下して歩くこと20分、
旧市街を抜けるとそこは海岸である。
マセナ広場から先は表通りの華やかさとはうって変わり
迷路のような路地に古い下町の情緒だ。

 

サレヤ広場には市が立っていて
野菜、果物、香辛料で溢れカラフルだった。
太陽の恵みをいっぱい受けたトマトは
ツヤがあり、絵に描いたような赤をしていた。
旧市街、この言葉を聞くと妙に心が躍る。
懐かしくも新鮮な街並みを歩き、
夢中になってシャッターを切った。

旧市街ではたくさん写真を撮るものの
それは実際に目にするよりも格段に劣る。
この狭い路地、古ぼけた壁の色、石畳の歪み、
これらを上手く写真に収めることができない…。
旧市街に流れる時間や空気を切り取れないのと同じで
それでも断片を集めて
後からパズルのように組み立てようと思う。

 

ニースの眺望

旧市街の外れに城跡がある。
ここには展望台があり街並みと海岸線が見渡せる。
エレベータは往復で1ユーロ(約135円)なので
階段を歩いて登ることにした。

海からの風が頬を撫でた。
すぅ~っと抜けて汗と一緒に青空に吸い込まれていく。
気持ちいいな。
今日のニースはとびきりの暑さだ。
太陽の日差しは強いものの
日本と違って湿気が少ないため嫌な感じはしない。

海岸線は綺麗な弧を描き、
コバルトブルーの海を受け止めていた。
オレンジの屋根をした街との対比が見事だ。
ニースの海といえば
大崎善生の『アジアンタムブルー』を思い出す。
主人公が余命いくばくもない彼女と過ごした最後の場所。
静かに息をひきとるシーンは何度読んでも胸が痛い。
だからもっと静かな海を想像していた。

 

 

シャガール美術館

午後からはシャガール美術館に向かった。
シミエ地区という閑静な住宅街にあり、
まるで白金か代官山を歩いている気分だった。
美術館の入場料は9.5ユーロ(約1300円)、
普段は美術館なんて行かないのに
旅先ではちょっと気取ってみたくなる。

キャンパスいっぱいに広がるシャガールの世界に浸ってみるか。
人類の創造、楽園追放など、
聖書のメッセージをテーマにした作品が多かった。
展示の仕方が上手で、ソファに腰掛けながらじっくりと
作品が鑑賞できるほか、写真撮影もOKなのは嬉しかった。

こんな風にオシャレにフランスの最後を締めくくった。
ニースの海も、シャガールも、
綺麗な“青”が印象的だった。

 

 

旅のカケラ/slideshow

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