午前7時10分、夜行列車は定刻より10分遅れで
ニュージャルパイグリに着いた。
ホームに降りると、気持ちいいくらいに晴れた朝だった。
あきらめたダージリン
ここジャルパイグリからダージリンまで、
世界遺産にも登録されている「トイ・トレイン」が走っている。
線路の幅が60cmしかないナローゲージの登山列車で、
たった80km足らずの距離を7時間もかけて走るのだ。
乗ってみたい。
実はつい2週間ほど前にもこの駅に来ていた。
そのときはこの列車に乗ろうと思っていたが、
ブータンの魅力が勝り、急遽ダージリンをカットして
ブータンを2日に延ばしていた。
因果なもので、もう一度ここに来るとは…。
しかも雨の多いダージリンでは珍しく快晴。
うーん、乗ってみたい…。
いやいや、ここは我慢だ。
これだけ大回りした上、さらに時間を割く余裕がどこにある?
ネパールに向かって突き進むべし!
せめてもの思い出にと、線路だけ触って駅を後にした。
トレイントレイン
線路は続くよ、どこまでも。
移動は続くよ、どこまでも。
インド・ネパールの国境の街、パニタンキへ移動した。
(乗車1時間/30ルピー ※約80円)
インドのイミグレを通過し、橋を渡るとそこはネパール!
おめでとう、14ヶ国目に突入だ。
ビザは国境ですぐに発行してくれるので、
申請用紙を記入し、写真を1枚、そして30ドルを手渡した。
ネパールに入り、なおも移動はつづく。
目指すは首都カトマンズ。あと1本バスに乗るだけ。
これがまさしく最後の試練だった。
ここまで40時間以上バスや列車に乗りつづけていたため、
疲れはピーク。早くホテルで1泊したいものだ。
本来ならバス会社を何社か当たって、
価格や条件を検討した上でチケットを購入するのだが、
それも面倒で「エベレスト・トラベル」という
いかにもネパールらしい旅行代理店に飛び込み、言い値で購入した。
800ルピー(約1550円)はさすがに高かったが、
きっと快適なバスだろうと期待していた。
…。
定刻に現れたのはボロバス。
おっと失礼。“御”をつけてお呼びしよう。
オンボロバス!
リクライニングするよ、って言ってたくせに
「俺は直角!」みたいなまっすぐなシート。
座ってみると、確かに後ろに少し倒れた。
いや!土台ごと後ろに傾いてるよ!
なんていう御ボロバスだよ…。
ステキな嘘
旅行代理店の彼はもうひとつステキな嘘を用意していた。
午後2時30分、ネパール国境の街「カカルビッタ」を出発。
途中何度も休憩し、山ほど荷物を詰め込んでは、
ガタガタと車体を揺らしながら、あえぐように走った。
(大量のバナナを積み込むため、まさかの1時間ロス)
ふと気になることがあり、隣の少年に聞いてみた。
「カトマンズまでは何キロあるの?」
少年はさぁ?と首を傾げた。
そこに割り込んできた運転手のひと言、
「600kmだよ」
そんなにあるんだ?
旅行代理店の彼によると12時間で着くと言っていたが
そんだけの距離を走り切れるだろうか?
隣の少年がつぶやく
「到着は明日の10時だよ」
…。
12時間ではなく、20時間だった。
ステキな嘘をありがとう(泣)
今度会ったらどうしてくれようか。
不機嫌というか、放心状態というか、
とにかく何も考えたくない心境だった。
ロード
それにしても身体が持つのか?
ここまで40時間だぞ、合計60時間じゃないか!?
腰が痛い。足がだるい。
気の遠くなる時間を狭い場所で過ごしている。
頼みのiPodは無性にTHE虎舞竜の『ロード』が聴きたくなり、
1章から13章までつづけて聴いてみた。
延々とバスに揺られる男、イヤホンから流れるのは『ロード』。
なんて悲しいストーリーなんだろう…。
ロードは13章で終わったが、
このバスはどこまでも夜道を走っていく。
3日間、たったひとりで戦い続ける戦士を乗せて。
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