午前1時、屋上のテラスに出ると
カズマがひとり心地よさそうに涼んでいた。
まだらに残った金髪が月明かりに照らされている。
よう、と静かに声をかけ向かいのイスに腰掛けた。
「今」をいっぱい重ねて生きていく
旅の夜は、不思議と日本との現状がテーマに挙がる。
アジアを旅していて思うのは、貧しさの中にある純真。
端から見ている分には、嫉妬や妬みとは無縁の彼ら。
みんな生きることを精一杯楽しんでいる。
白昼道端でおしゃべりやトランプに興じ、
店番もお客が来るまでハンモックで舟を漕ぐ。
明日のことより今日のこと。
「今」をいっぱい重ねて生きていく。
物や情報に溢れ、無限の選択肢があるにも関わらず、
狭い世界に生きていた日本での生活。
そんな日々を思い出しながら、
難しい顔をして「日本の将来は…」なんて話に酔う。
なんで旅をしてるの?
これもお決まりの話題で、旅をつづけるごとに
ちょっとずつ理由は変化している。
「やりたいことと、やらなきゃいけないことの
境目に線を引いたんだ」
最近はこう答えている。
見えない自分の明日を、日本の将来の不安に重ねながら、
ゴールのない話を、夜空にばらまいて眠りについた。
話のつづきは日本で、と約束を交わして…。
別れの朝
それぞれ「カラーシュ・バレー」に向かうが
選んだ村は違ってきた。
カラーシュ・バレーにはカラーシュ族の村がいくつもあるためだ。
「いつかどこかで」
パキスタンの真ん中で、ひとりぼっちになった。
なんだか清々しい別れだった気がする。
乗合ジープに飛び乗り、約2時間。
渓谷を縫うように進むと、とても小さな村があった。
ブンブレット谷の「ブルーン村」。
渓流のざわめき、鳥のさえずり、風の音…。
緑道の木漏れ日のなかで、
深呼吸しながら久々のひとり旅が始まった。
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