とにかく長い1日だった…。
サイドミラー
午前8時、
宿のオーナーに手配してもらった
タクシーが到着した。
玄関まで見送りに来てくれたのは3人。
カズマ、
もう5度目となるサヨナラの握手を交わした。
次に会うのはおそらく日本だろう。
マサさん、
エチオピアで合流した同郷のアニキは
およそ2週間、苦楽を共にした。
ヒロくん、
「一緒にスーダンを抜けよう」と、
エジプトのアスワンをスタート。
約1ヶ月に渡り、アフリカの辛い移動を闘った。
タクシーに乗り込む間際に、
「これ、お守り代わりに」
と、マサイのブレスレットを手渡してくれた。
まったくニクイ演出をする男だ(笑
「楽しかったよ、ありがとう」
勢いよくドアを閉め、
まるで“あいのり”のように
よい、旅を!と手を振った。
サイドミラー越しに、小さくなっていく姿を
しばらく見つめていた。
嫌な予感がした…
ここケニアのナイロビから
マダガスカル&モーリシャスを目指す。
空港へ向かう道はとにかく混んでいた。
そして今日は3つの事件が待っていた。
まずは、ナイロビからマダガスカルの首都
「アンタナナリボ」へのフライトだ。
定刻の2時間前に空港に到着し、
チェックインも完了。
11番ゲートの前で搭乗を待っていた。
出発の時刻を迎えるも動きはない…。
まぁ、多少は遅れるわな、
本を読みながら待機していた。
すると、スタッフが軽い食事を配り始めた。
嫌な予感がした…。こういう場合、
大幅な遅れが生じるという合図なのだ。
列に並び、パンやヨーグルトを受け取り、
ベンチに座ってそれらを口にした。
腹は満たされたが、
気が気じゃなくなってきた。
今日はマダガスカルで乗り継ぎがあるため
悠長なことは言ってられないのだ。
日本ならともかく、
まさかの事態に対応できるだけの
英語力を持ち合わせていないんだもの…。
乗り継ぎと駆け引き
3時間遅れで飛行機は離陸した。
機内食を食べ、少し仮眠をとっていたが、
激しい機体の揺れで目を覚ました。
そして初めて目にするマダガスカルの大地が
目に飛び込んできた。
ここからモーリシャスへともう1フライトあるため、
着陸後、急いでイミグレーションに向かった。
スタッフに問う、
「乗り継ぎはどこですか?」
スタッフはなにやら無線で確認した後、
笑顔でこう言い放った、
「もう出発しました」
え”、、、言葉を失った。
いったいどうしたものか!?
手当たり次第にスタッフに詰め寄り
「モーリシャス、モーリシャス」と
チケットを掲げて、状況を汲み取ってもらった。
そのころ、相方のヒロはビザを受け取り
イミグレーションを後にしようとしていた。
モーリシャスはひとりで行くため、
彼ともしばしのお別れ。1週間後に
ここマダガスカルで再会することになっている。
今日の飛行機はもうない、ということはわかった。
このトラブル、どう決着がつくものかと
不安だったが、ここにいても仕方がない。
とりあえず航空会社に事情を説明しよう。
イミグレを出ようとすると
警察に呼び止められた。
「君、ビザは?」
「トランジットだけですから、
24時間以内はビザ不要でしょ?」
ノー、ノー。
ビザを取って来い、と引き下がらない。
マダガスカルのビザは95ドルと高額な上、
シングルビザしか取得できない。
モーリシャスに行ったのち、
再びここを訪れるわけで、
ビザを2回取らなくていいために
24時間以内の乗り継ぎを指定したのだ。
「明日の便に乗るんだろ?
だったら24時間以上経つから
ビザが必要なんだ、わかったかい?」
聞けば明日のフライトは午後11時だと言う。
今から30時間以上もある…。
振り替えが可能かもわからないし、
ビザ代はもったいないし、
もう、どうしていいものやら…。
そのとき、ある警官が座ったまま
膝に位置で手招きした。
「ワイロをよこせ」の合図だ。
ピンときた!
ここは乗っておこう、と。
紙に5ドルを包み、そっと手渡した。
すると彼は何やら書類を作成しはじめた。
もう1回、手招きをしてきた。
5ドルじゃ足りないと。
仕方なくもう3ドルを同じように手渡す。
するとパスポートにスタンプが押され、
OKと、出口を指差した。
これ、ビザ?
サンキュー!!と礼を述べ、
出口に向かう。
天国と地獄
途中2回のパスポートチェックも
このスタンプで無事に通過できた。
マダガスカル航空の窓口に走り、
事情を説明した(汲み取ってもらった)。
「ビザは持ってる?」
そう聞かれたので、むべもなく
「YES」と自信満々に答えた。
一枚の紙を手渡され、
「フライトは明日の深夜。
ホテルを用意するからそこで待機して。
タクシーの送迎と食事もこちらで用意します」
と、説明を受けた。
タクシーで1時間、
1泊70ドルの中級ホテルに通された。
念のためフロントで確認すると、
やはり食事3回と、空港までのタクシー付き。
もちろんすべて無料!
貴重なモーリシャスが1日減ったが、
まぁラッキーだったと思う。
テレビやバスタブに浮かれていた。
だから、落とし穴が待っていた。
両替をしていないため、
マダガスカルの通貨を一切持っていない。
ホテルのすぐ近くにATMがあったので
お金を引き出しに行くことにした。
午後7時、あたりは真っ暗だった。
大きな通りが2本走っていて、
そこに挟まれたカタチの芝生の緑道があった。
雨上がりの芝を踏みしめ、歩いていると
ふいに後ろからタックルを受けた…。
もんどりうって倒れ、
誰かが後ろから抱きついていることに気づいた。
強盗だった!
パニックになりかけ、
咄嗟に出た言葉は「誰か、誰か、助けて!!」
と、日本語。
こりゃいかん、と意外と冷静に
「ヘルプ、ヘルプミー」と英語で叫び直した。
隙を見て起き上がると、すかさず蹴りが飛んできた。
パニックと冷静のあいだ、そんなテンション。
危機に慄きながらも、防衛本能がフル回転した。
武道の心得はないが、集中力が高まっているせいか
相手のモーションでどこを攻撃してくるかが読み取れた。
蹴りを両肘で受けとめ、
逆に相手の足元を蹴り返してバランスを奪った。
今だ、ダッシュで逃げた。
足元のサンダルがうっとうしい。
そいつを脱ぎ捨て、一気に加速した。
追われている間、恐くて恐くて言葉も出なかった。
振り切ったあたりで、警備員の姿を目にし
転びながら助けを求めた。
警察も駆けつけ、5人ほどに保護されながら
ATMに行った。
帰り道も途中まで彼らの護衛を受け、
無事にホテルに戻ってこれた。
部屋に入り、落ち着きを取り戻すと
急に震えがきた。
だって、下手に抵抗したら何をされるかわからない。
ナイフを持っていたかも知れないし…。
お気に入りの偽クロックスは失ったが、
よくぞ無傷で済んだものだと。
不幸中の幸い
そんな言葉が似合う1日だった。
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