朝食の後、ホテルのすぐ近くにある
「アルケミー」で日記を書いていた。
今日はカーチャーターでドライブに出かけるが
約束の時間は正午なのでまだ時間があった。
スマホが鳴り、出てみるとタマンからだった。
タマンは本日のドライバーで、
バリに着いた翌日も彼の運転で出かけている。
ラストツアー
「ハロー?どうしたの?」
そう尋ねると、
今日の出発を1時間早めないか?という彼からの提案だった。
なんでも、昨夜の雨で道が悪いので
早めに出たほうがいいという。
OKと、電話を切り、
ドリンクを飲み干して店を出た。
ホテルに荷物を取りに行き、
次のホテルに送ってもらった。
11時、タマンが迎えに来た。
後部座席に乗り込み、
今日のコースを確認しながら出発。
最初に向かうのは「ジャティルイ」だ。
世界遺産の棚田
ジャティルイは、バトゥ山のふもとの丘陵地帯。
山と深い渓谷が連なり、一面に棚田が広がっている。
先日訪れたテガラランの棚田よりも規模が大きく、絶景だった。
水の便も悪いこの土地に広大な棚田を築き上げたのは、
1000年以上も前から伝わるスバックという
伝統的水利システムのたまものらしい。
この独自の技術による棚田地域の文化的景観は
2012年ユネスコの世界文化遺産に選ばれている。
じゃあ、ここで待っているから、と
車を停めて散策コースを説明してくれた。
2時間くらいどうぞと。
思い思いに畦道を歩くことができ、
所々に案内図もあるので迷うことはなさそうだ。
今日もいい天気で、田んぼの緑が美しい。
井上陽水の「少年時代」が頭に流れてくる。
季節はもう秋だが、
ここはまだまだ夏の匂いが残っている。
旅をしてること、生きてることを感じながら
一歩一歩大地を踏みしめて歩く。
小さな屋台があり、
何か食べられるかを聞いてみると、
「ガドガドならできるよ」と言われた。
ここのガドガドは、
リゾットのようなライスと温野菜を混ぜ、
甘みのあるピーナッツソースがかかっていた。
ムングゥイ王国の国寺
車でうとうとしていると、
「タマンアユン寺院」に着いた。
寺院の周囲は堀がめぐらされ、
緑がキレイな場所だった。
日差しが強く、ここもまたしっかりと夏だ。
セミが元気に鳴いている。
境内は、祭りがある時以外は締め切られているそうで、
境内周囲を取り囲む遊歩道から見物することができる。
最大の特徴は、境内にメルと呼ばれる
多重塔が10基も立ち並んでいることで、
日本の景色に似ていた。
名もなきカフェ
15時、少し疲れたので
タマンにお願いし、カフェに連れて行ってもらった。
ここら辺はないから少し走るよ、と30分ほど車を走らせ、
小さな集落に入っていく。
原っぱにポツンとテーブルが置かれたカフェで、
とてもローカルな雰囲気が気に入った。
スイーツとアイスオーレを注文し、
木漏れ日の中で静かな時間を楽しんだ。
ふと席を立ち、道の先に歩いてみると
そこには田園風景が広がっていた。
いい景色だなぁ。
こういう何気ない発見が一番贅沢だと思う。
もう1度来ようと思っても、きっと辿り着けたい場所。
素朴な景色だけど、
バリの記憶として色褪せずに残るのは
こういうシーンなのかもしれない。
旅の終わりとサンセット
ラストシーンに選んだのは「タナロット寺院」。
ここは夕日のスポットとして人気で、
インド洋に沈む夕日をバックに
シルエットで浮かぶ寺院が素晴らしい。
連日、夕方は雨が降っていたので、
きっと今日しかサンセットを見ることはできなかっただろう。
潮騒と、湿った海風。
旅の果てまできたを実感する。
終わってしまう切なさと、
やりきった満足感が入り混じり、
なんとも表現ができない複雑な気持ちが込み上げてくる。
いろんな果ての景色が頭に蘇ってきたが、
一番似ているにはスリランカで見た夕日の海かな?
高台に腰掛け、ゆっくりと海に沈んでいく夕日を眺めていた。
まるで砂時計のように、旅の時間が落ちていく。
ラストシーンは、海に延びたオレンジの道。
また来れるといいな。
エピローグは夏まつり
帰り道はすっかり夜になっていた。
車窓から景色を眺めていると、
街角には屋台が集まっていて
夏まつりのようにキラキラしていた。
あぁ、アジアの夜だな、と懐かしい気持ちになる。
一人旅で淋しい気持ちになった夜は、
いつもこの景色に励まされたことを思い出した。
タマンは車を停めた。
「近くにナイトマーケットがあるから行ってみようか?」
車を降り、タマンに連れられ
真っ暗な路地を抜けていくと、
開けた場所が現れ、たくさんの屋台が集まっていた。
観光客は皆無で、みんな地元の人たちのようだ。
キラキラしていて、活気に溢れている。
夏まつりみたいだ。
予定にない、ローカルな贈り物。
なんだか嬉しい気持ちになり、
これだから旅はやめられないと、
小さな奇跡に感謝した。
「またバリに来るときは電話して」
握手とハグでタマンと別れ、
彼が走り去る車をずっと見送っていた。
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