深夜の大冒険

深夜2時半、目覚ましのアラームが鳴った。
ハッと飛び起き、荷物をまとめる。
レセプションをノックし、玄関の鍵を開けてもらった。

 

深夜の旅立ち

ここはインドのダラムサラ。
アムリトサルへと戻るバスが早朝5時だったため
こんな深夜の出発となった。
というのも、宿があるのが「アッパーダラムサラ」という街で、
バスターミナルは山をひとつ下った「ロウアーダラムサラ」という街。

その距離10km。

タクシーを使えば簡単なことだが、
「120ルピー(約320円)」と言われたため歩くことにした。
ダラムサラからアムリトサルまで約300kmあるバスが
140ルピー(約400円)だということを考えれば
高過ぎることがわかってもらえるはずだ。

ここはインド、しかも山深い街。
こんな時間に歩いて大丈夫なものだろうか?

宿の人に聞いてみたところ、
「非常に困難だ、きっと道に迷う」と言われてしまった…。
午前3時、とにかく行くしかない!と、
小さなライトを握り締めて歩き出した。
“つま先の一歩先へ”、それが合言葉。

 

とにかく暗い道…。

すぐ横は崖なので、なるべく道の真ん中を歩くように心がけた。
途中何本も脇道が現れたが、
メイン道路であろう道を信じて進む。
心なしか手にしているライトの光が弱い気がしてきた。
頼むよ、2時間だけ耐えてくれ。
真っ暗な道をひとり歩いてくると
たくさんの不安がよぎる。

果たしてこの道でいいのだろうか?
ライトは最後まで持つだろうか?
バスの時間に間に合うだろうか?

先の見えないことへの不安。
ふと夜空を仰ぎ見る。
満天の星、そしてスターダスト。
そしてこのとき、こんなことを考えていた。
「星はこうやって夜空にあるはずなのに、
都会では見えない。

未来も同じだ。

手を伸ばせばすぐそこにあるのに
いろいろな不安が邪魔して見えなくさせる」
この歩みを止めなければ、
必ずゴールに辿り着くはずだと信じて
まっすぐに暗闇を見据えた。

 

ピンチ到来

道路の標識らしきものを見つけた。
ヒンディー語のため文字は読めないが、
数字が書いてある。
しばらく進むと、同じ標識が再び現れた。
数字が減っている。
どうやら数字は距離、これが0になれば
目的地の「ロウアーダラムサラ」に違いない。
時計をストップウォッチにして
1kmごとのラップタイムを計りながら進む。
10分ジャスト。
これが1kmあたりの平均タイムだ。
ということは時速6km、いいペースだ。

午前4時30分、ふもとの街に着いた。
ここで気をつけなければならないのが野犬だ。
街にはたくさんの犬がいて、昼間は眠っているくせに
夜のなるととても凶暴化する。
足音を殺しながら犬から距離をとって歩く。
決して目は合わせない。

のし!っと大きくて黒い物体が動いた。
びっくりして後ずさる。
ん、ん?その正体は牛だった…。
驚かすなよ、と胸を撫で下ろした。

安心したのもつかの間、恐れていたことが起こった。
ワゥ、ワゥワゥ、ワィワゥワゥ!!!
どうやら野犬に見つかったようだ。
1頭が吠えると、遠くでまた1頭が吠える。
そっと振り返ると、野犬の群れができていた。
これはピンチ!!

無関心を装って歩くも、どんどん興奮する犬たち。
助けて、助けて、助けて、と何度もつぶやきながら
どうすべきか必死に考えた。
ふと一軒の家が見えた。
壁に囲まれた立派な家だ。

これだ!と、庭先に逃げ込み、
壁に隠れて小さくなった。
しばらく犬たちは吠えていたが、
やがて鳴きやみ、どこかへ散っていった。
いやぁ、命拾いした。

 

インドの風にまどろんだ

再び歩き始めると、
今度は1台の車が追い越しざまに止まった。
窓が空き、「どこへ行くんだい?」と声をかけてくれた。
バスターミナルへ行きたい旨を告げると、
ここで曲がるんだよ、と交差点を指差した。
もしこの車がいなかったら
バスターミナルに辿り着かなかっただろう。
目印もない小さな交差点。
そしてその先にこれまた小さくて長い階段が伸びていた。

こうやっていつもギリギリで誰かが助けてくれる。
紙一重のタイミングで、運命の綱を渡っているようだ。
すべてが偶然で、でもすべてが必然だと思う。
前に進んでいるからこそ、渡りに舟がやってくる。
バスに乗り込み、大きく安堵の息を吐く。

今日はまだ始まったばかりだが、
深夜の大冒険に疲れ果ててしまった…。
左右に大きく身体を揺らしながら、
インドの風にまどろんでいた。

 

旅のカケラ/slideshow

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