前へ進む勇気

カラーシュ・バレーのブルーン村を後にし、
今日は行けるところまで進もう!と決めた。

 

バスを乗り継いで

ブルーン村→アユーン→チトラールと、
乗合ジープとバスを乗り継いだ。

チトラールのバスステーションについたのが午後1時、
まだ体力的にも余力があったので
「ここからもう1発先に進むよ」と、
2日間一緒に過ごした、
シンさん、ノブ、コンの3人に手を振った。

再びひとり旅。でも“また会える”気がして、
次はどんな街で再会するのかが楽しみだった。

 

CROSS ROAD

そういえば昨夜、チトラールで別れたカズマが
ブルーン村のゲストハウスにひょっこり訪ねてきたし、
同じくチトラールで別れたトモも、
渓谷を走る乗合ジープですれ違った。

Exif_JPEG_PICTURE

―CROSS ROAD―

ミスチルの歌詞のとおり
それぞれの道を進むなかで、何度も巡り会う。
出会えた「縁」が、今は「絆」に昇格している。
次なる街「ペシャワール」へと歩み出す。

さすがにこの時間からペシャワール行きのダイレクトバスは
見つからなかったが、
中間地点にあたる「ディール」行きのバスが見つかった。
厳ついジープで7時間、
険しいロワライ峠をガリガリと突き進み、
水しぶきを上げながらいくつもの川を渡った。

 

もう1歩

20時。ディールの街もさすがに暗い。
宿を探そうかと思ったとき、客引きの声に足が止まった。

「ティマルガラ、ティマルガラ」

どこだそれは?持っていたガイドブックには載っていない地名。
とても気になり、ペシャワールに行く途中の町なのかと訪ねてみた。
ディールからティマルガラまでは約100km。
ペシャワールへとまた1歩近づく。

見知らぬ街で夜に宿探しするのは不安だが、
行け!と心が後押しする。
ワゴンの最後部に乗り込むと運転手が
「こっちへ来い」と笑顔で呼んでいる。
どうやら助手席に座らせたいようだ。

英語が話せない運転手、かまわずウルドゥー語で話しかけてくる。
もちろん理解不能…。でもなにやら楽しげだ。
猛スピードでカーブを曲がり、次々に車を追い越していく。
助手席で体感するスリルドライブは、
遊園地のどのアトラクションよりすごかった。

 

埃っぽい町

22時、ティマルガラという埃っぽい町に着いた。
ホテルを見つけようと右往左往していると、
ルー大柴に似たパキスタン人に出会った。

「ひとりで来たのかい?
夜、ここはとても危険な町なんだ」

と、神妙な顔つきに少しぞくりとした。

パキスタンに入ってからというもの、
とにかく彼らの優しさには驚かされてばかりで、
危険という感覚が薄れ気味だった。
とにかく宿に急ごうと、彼のあとを追った。

看板もない寂れたホテル。
部屋を見せてもらうと、これまた埃っぽくて
土間にベッドがあるだけの色気のない部屋だった。
1泊160ルピー(約300円)。
少し予算オーバーだったので、返事にあぐねていると
「私に任せておきなさい」といわんばかりに彼が会計をはじめる。

ちょっと待った!慌てて彼を制すると、
「なぜ?君は私のゲストだから心配いらない」と不思議そうな顔をする。
結局彼の勢いに押され、半分ずつ出し合うことで落ち着いた。
そして部屋にベッドは3つ、彼も泊まっていくと言い出した。

なぜ?

 

スリルな夜、はじまる…

嫌な予感がする。
パキスタンは同性愛者が多いと評判だし、
何かの罠のような気も…。
かといって他のホテルを探す気力もない。
バッグを厳重にロックし、ポケットにはナイフを忍ばせた。

ガンガンガン!

激しいノックが部屋に響いた。
ビクっと飛び起き、ドアを開けるとそこにはポリスが立っていた。
おもむろに部屋に上がり、パキスタン人と何やら口論をはじめた。
そして彼の身分証を取り上げ、荷物をチェックしはじめた。
胸騒ぎはさらに上昇。
彼の持っている荷物は大きなダンボール。
まさかあの中に大麻でも隠していたら…。
共犯?連行される?
いや、警察もグルで罰金を支払うように恐喝されるかも…。
悪い予感は瞬時に脳内を駆け巡る。
なぜか、靴下を履き直す自分の行動もよくわからない(苦笑)

ホテルのオーナーがかけつけ、
「ノープロブレム」と、優しく呟いた。
少し力が抜けたが、ふたりの口論は終わらない。
結局何事もなかったようにポリスは帰っていった。
あぁ、早くこの夜が終わらないだろうか…。

その夜、浅い眠りを何度も繰り返し、
ダニに刺され、胸焼けに苦しんだ。

 

エスケープ!

もうダメだ!と午前4時、
荷物をまとめ、まだ暗い街へと飛び出した。
彼の大きないびきを断ち切るように扉を閉めて。
ペシャワール行きのバスを見つけ、
座席で死んだように眠った。

とんとん、と肩を叩かれ、「着いたぞ」と運転手が笑う。
お前は日本人か?
はい、そうです。
降りようとするのを制し、チャイを飲もうと笑いかける。
バスの中であついチャイをすすりながら、
目まぐるしい人間ドラマを振り返る。
どこまで信用していいのか?それは謎だ。
結局朝食もご馳走になり、
手を振ってペシャワールの街へと向かった。

どこへ行けばいいのかわからないが、
蒸し暑さによろめきながら、
新しい街の空気を大きく吸い込んだ。

 

旅のカケラ/slideshow

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です