唇に皿、目も皿

エチオピア最後のハイライトは、
マゴ国立公園内にある「ムルシ族」の村を訪ねる。

 

振り落とされないように

ムルシ族の女性は、
下唇に穴を開けてそこに皿のような素焼きの土器を
はめることで有名である。

午前7時半、エージェントの事務所を訪ねた。
事務所の前に1台の車が停まっていた。
車種はランドクルーザー、
後ろが荷台になっているタイプだ。
「これが君らの車だよ」

えっ!?
車内に乗れるのはたったの3人で、
あとはみな荷台…。
嘘でしょ、勘弁してよ!!

うなだれている姿を横目に、
どうだ、いい車だろ、トヨタだぞ、と
なぜか得意顔。エチオピア人ってポジティブだ。

話合いもなく、席順は決まった。
運転手とガイド、そしてオーストリア人の女性が
車内に乗り込み、残った僕らは荷台に乗ることに。
片道約3時間、かなりの悪路と聞くので、
振り落とされないようにしなければ。

 

鈍いエンジン音を響かせ、車は動き出した。
「Have a nice trip(よい旅を)」
って、うるさいよ!
まったくこのオーナーったら…

 

「ボト、ボト」

ともかく出発だ。
開放感だけは抜群(そりゃそうだ)
砂煙を巻き上げてオフロードを行く。
途中、2つの川を渡り、
急な斜面をアップダウンしながら風を切った。

マゴ国立公園内に入ると景色は一変した。
広大な湿原地帯が広がり、
無数の蝶が飛び交い、木の上には白い猿。
エンジン音に驚いたトンビが草むらに駆け込んだ。

おっ、第1村人発見!!
黒い肌、手には槍を持っている。
ムルシ族だ。
車はスピードを緩めた。
すると彼らは近づき、
自らを指差してこう言った。
「ボト、ボト」
写真を撮れ、という。
もちろん有料で2ブル(約20円)。

彼らとのファーストコンタクトは
ゲンキン(現金)なものだった…。
(もちろん、喜んで撮ったけどさ)
まもなく彼らの村に着くというところで
ガイドから1つの提案がもたらされた。

 

土と藁でできた家

「一番大きな村は、おそらくツーリストでいっぱいだ。
そこで、もっと小さな村に行こうと思うのだが」
そういえば、何台ものジープやランクルが
砂煙を巻き上げて走っていくのを目にした。

自分たちのようなトラックタイプではなく、
後部座席では欧米人が優雅にくつろいでいた。
1号車、2号車と、張り紙がしてあり
ちょっとした渋滞もできていたくらいだ。

そうだね、ムルシ族に会いに行くのか、
欧米人に会いに行くのかわからなくなるし…。
けもの道のような細い轍を、ノロノロと進んだ。
村はとても小さく、
土と藁でできた家が6つあるだけだった。

車の音を聞きつけると、
村人総出で迎えられた。

 

皿を入れる

「ようこそ、ムルシの村へ。
写真撮って、写真!」

って、具合で…。
我先にと飛び出してくる女性たち。
手に持っていた皿を急いで口にはめ、
ポーズを決める。(普段ははめてないのね…)

うわっ、あんな大きな皿が入ったよ…!?
目を皿のようにして驚いたが、
うーん、違うんだよ、
もっと神秘的で、
人慣れしていない感じを望んでたのに…。

ボト、ボト!(写真、写真)
苦笑いで、シャッターを切り、
撮影代として2ブル(約20円)を手渡した。

たしかにすっごい体験なんだけど、
完全に観光化されていて
タイで訪れた「首長族」の村よりも
明らかに彼らは垢抜けていた。
皿をはめた女性や飾りをつけた子供、
ライフルを持った男などがいた。

彼らは灰の粉を体や顔につけて化粧をしている。
体を刃物で切り、その跡が盛り上って
キレイな模様になっている人もいて、
これも彼らなりの化粧だという。
手持ちの小銭がなくなった頃、
村を後にした。

 

普通がいいよ

ヒュルリ~
懐と心に少し、隙間風が吹いた気がした。
彼らの伝統は、今や貴重な村の収入源。
撮影代と入村料(1台2000円)で
生活を切り盛りしている。
伝統を売り物にする人と、
それに金を払う観光客。
おかしな需要と供給が成り立ってしまった。

実はムルシの文化は消え行く運命にあり、
女性が唇を切って皿を入れることは
政府が禁止しているらしい。
そのため、若い女性たちは皿をはめておらず、
皿を入れているのは年配の女性ばかり。
そもそもなんでこんな風習が始まったかは
知らないが、見るからに痛そう…。
食事もし辛そうだし、
「普通がいいよ」と言ってあげたい。

いつもツアーによる少数民族との接触は、
どこか悲しい気分になる。
(かといって、自力で会いにも行けないのだが…)
テレビとは違い、現場のウラまで見えてしまうから
ちょっと気持ちが萎えてしまう…。
そう言ったら贅沢だろうか…?

■ツアー料金の内訳
車代:約3000円(ガイド込み)
ガードマン代:約110円
マゴ国立公園入場料:約1100円
ムルシ族の村入村料:約350円
※6人のツアーで、ひとり頭の料金

 

旅のカケラ/slideshow

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