君がいた夏

メキシコ時刻10時15分、飛行機は飛び立った―。

眼下に見えるメキシコシティの街並み、
どんどん小さくなって、
まるで長い夢だったように雲の中に消えた…。
どんなに長い物語もやがて終わりを迎える。
最後のページをめくるときがきた。

 

 

飛光よ、飛光よ

空港はやっぱり特別な気持ちにしてくれる。
気持ちがシャキっとするし、
何かを始めたり、終えたりするのに相応しい場所。
旅が終わり、新しい何かが始まろうとしている。

 

手元に用意したのは沢木耕太郎の『深夜特急』。
この日のためのとっておき、最終巻である。
「ここがゴールではないのか?」と旅の終着点を模索する主人公。
旅の潮時を見失わないように、でも納得できる何かを探して
彼の心はおおいに揺れる。
わかる。よくわかる、その気持ち。
雲海の中で主人公と気持ちを重ね、長旅の整理をした。

 

本を読み終えると力が抜けた。
いや、肩の荷が下りたと言うべきかもしれない。
描いていた夢が叶ったのだから。
この深夜特急もまた、“飛光よ、飛光よ”と結びたい。

 

日本に触れる

そんな感傷に浸っていたのも束の間、
機内は日本を身近に感じる出来事が目白押しだった。
搭乗した飛行機はJAL。
客室乗務員はもちろん日本人で、
「いらっしゃいませ」「お飲み物はいかがでしょうか?」
そんなひと言がとても嬉しい。
心が和むなぁ。
必要以上に頭を下げて「ありがとう」を繰り返してしまった。

機内に置いてあった新聞、これももちろん日本のもの。
朝日、読売、日経、スポーツ報知、デイリースポーツ…
5紙ももらってしまった。
飢えてる飢えてるw

一番楽しみにしていたのは座席に付いているパーソナルテレビ。
これまた当たり前だが日本語プログラムが充実している!
これのためにJALを選んだんだよ。
『20世紀少年』のパート1を観た。
内容うんぬんよりも日本の光景に見とれた。

 

おまけの60ヶ国目

つづけてパート2を観ようと思ったが
おそらく途中で経由地「バンクーバー」に着いてしまう。
だから新聞を読んで過ごした。
およそ5時間のフライトを終え、バンクーバーの空港に降り立った。

60ヶ国目「カナダ」!!!!!

 

と、叫びたいところだったが滞在時間はたったの1時間。
しかも、空港内の待合ロビーだけ…。
名税店すら覗けないのが残念だった。
陽がさんさんと差し込む大きな窓から滑走路と、
その向こうに見えるカナダの美しい山を眺めた。
遥かカナダ……いつかまた来たいな。

 

あの暑さを思い出したくなったら

再び機内に乗り込む。
本当にこれが最後のフライト。
バンクーバーから成田へ、約9時間の空の旅。

水平飛行に入るとすぐ2度目の機内食がサーブされた。
「何になさいますか?」
手渡されたメニューを見てビックリ!
「これ!!て、天丼をお願いします!!」
天丼をかきこんだ。おかずの煮物も美味しい。
飲み物は?と聞かれるとたいていコーラにしていたが
日本茶をお願いし、お腹も心も満たされた。
明日からしばらくは夢のような食事がつづくんだな♪
機内でひとりほくそ笑むw

 

そこからは映画に夢中になった。
『20世紀少年』のパート2を観て、
その後に
『パイレーツ オブ カリビアン 呪われた海賊たち』を観て
カリブの青い海を思い出し、
ちょっと休憩がてら
『秘密のケンミンSHOW』(なんでこんなのやってるんだろう?)と
『美の壺 沖縄スペシャル』を観た。
いっきに6時間近くが過ぎた。
さすがに疲れたが、最後にもう1本
『いま、会いにゆきます』を観て目頭を熱くした。

いま、会いにゆきます…か。
そういえば、この旅は会いにいった旅だった。
感動に会いに、絶景に会いに、驚きに会いに。

そして、もうひとりの自分に会いに――。

あの夏の少年
何かに夢中になり、一番無防備だった時代。
夏のかけらを追いかけた、少年の瞳に。

君がいた夏、
ずっと忘れない。
もし、あの暑さを思い出したくなったら
「また、会いにゆきます」

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です