渚のシンドバッド

夏、夏、夏、夏、常夏
アイ、アイ、アイ、アイ、アイランド♪
浮かれ気分で海岸線を走る。
光る水面、どこまでもつづく水平線。

キタ、キタ――!!夏だよ!海だよ!

 

ゴールド・モアー・ベイ

イエメンの南端「アデン」。
ここは旧南イエメンの首都だった場所。
街の背後には巨大な岩山が迫り、
荒涼とした風景が広がる。

目指すは「ゴールド・モアー・ベイ」。
名前も浮かれ気分な美しいビーチ。
頭の中のBGMはサザン、TUBE、TRF。
ちょっと世代の古さがバレちゃうけど、まぁよしとしよう。

ビーチサンダルを脱ぎ捨てて、砂浜を駆け出した。

 

もう波の音しか聞こえない

海は遠浅で、少し波が高い。
エメラルドグリーンではなかったが、充分にキレイな海だ。
寄せては返す波を乗り越えて、どんどん沖に向かった。
天を仰ぎながらプカプカと浮かんでいると、
もう波の音しか聞こえない。

ワクワクしながら海を目指し、
潮騒に比例して胸の高鳴りも大きくなる。
ギラつく太陽を浴びて、喉を渇かして、
身体が空っぽになるまで叫び、走り、泳ぐ。
疲れたら木陰で波の音を聞きながらひと眠り。

サングラスのムコウに、夏の力強い雲を見た。

 

終わらない夏を旅している

楽しい時間ほど、去り際は淋しいもので、
なんだかすべての音が遠く小さくなっていく気がする。
乾いた身体の砂を払い、サンダルを履く。
波打ち際で、ちょっと感傷的な気分に浸った。

蝉が短い夏を力の限り鳴くように、
終わらない夏を旅している自分も、
力の限りに今日を生きている。

こうして旅をつづけていると
1日1日の密度が濃く、
濃過ぎる時間のせいで毎日がとても早い。
すべてが一期一会で、二度と戻らない時間たち。
神経を研ぎ澄ます、というよりは
リラックスした状態で毎日を過ごしているので
1日の時間の移り変わりがよくわかる。

 

この海の向こうにあるのは…

時計を見なくても、太陽の傾きや影の長さ、
そして風の温度で時刻がわかってしまう。

街には色があり、
特に夕方のオレンジに染まる街が好きだ。
たしか梶井基次郎も『檸檬』の中で
同じセリフを言っていたような…。
中学校の教室、国語の時間に読んだ作品。
こんなに時間が経って、こんな異国で記憶が甦るとは。
二度と戻らない時間、と書いたが、
どこかでつながっているのだろう。

そろそろイエメンの旅も終わりが近づいてきた。
もうすぐ発車のベルが鳴る。
この海の向こうにある、アフリカ大陸が待っている。

まだまだ高い太陽を背に、宿への道を歩き出した。
渚のシンドバッド、そんな気分で。

 

旅のカケラ/slideshow

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