ダッカの洗礼、そして悲劇…。

これほど沈んだ気分で日記を綴るのは初めてだ。
文字にする辛さ…、
奥歯にギュッと力を込めながら
今日の出来事を述懐しよう。

 

 

ダッカは混沌の街

ロケットスチーマーで29時間かけて、
クルナ→ダッカへと移動した。
想像通り、喧騒と人が渦巻く混沌の街だった。

目当てのホテルにチェックインし、
さっそく街をぶらつくことに。
行き先はニューマーケット。
新しい服や小さめのバッグが欲しかった。
一通り見て回ったが、雨が強くなってきたので
バスターミナルへ避難することにした。

 

ここから事件は始まった。

バングラデシュはとにかく人に囲まれる。
観光客が珍しい(未だにひとりもツーリストを見かけていない)し、
日本が大好き。
「ハロー、ジャパニ」と1日に100回は声をかけられる。

 

油断と後悔

今日も同じだった。
たくさんの人に囲まれながら、バイクタクシーにまたがった。
行き先はバスターミナル。
すると、ひとりの男が近づいてきた。

「あ、さっき郵便局で声をかけてきた男だ」

親しげに運転手と話す彼。
きっと友人なのだろう。
ベンガル語なので内容はわからないが、
運転手が制するのを笑ってかわし、
後部席(3列目)に無理矢理またがってきた。
窮屈だよ…と思いながらも
バイクから振り落とされないようにシートをつかみ、
そして雨を拭った。

運転手は「警察に捕まるから!」と、彼を降ろそうとしている。
仕方ないな、そんな言葉を残し彼はバイクを飛び降りた。
彼と目が合った瞬間、嫌な感じがよぎった。
これが本能というやつ。
リュックを確認する、ジッパーが少し開いていた…。

「ストップ!!」

運転手にバイクを止めてもらい、バックの中身を確認した。

な、ない…。
カメラがない!

「彼は友人?」
青ざめた顔で運転手に聞いた。
「全然。どうかしたの?」
急いで彼が走り去った先へバイクを飛ばすも、
すでに後の祭り。
オレンジのチェックシャツ、リーゼントくずれの髪形は
発見できなかった。

 

無償のやさしさ

ここまで約30秒という悲劇のショートストーリーだ。
遠のく意識…。
人は消化しきれない事態に陥ると、
思考能力が低下し、眠気を覚える。
そして、「これは夢じゃないか?」と都合のいい考え方へと逃避する。

ダメもとで頬をつねってみる。現実は厳しいことを知る。
ことの重大さに気づいてか、
崩れ落ちそうな状態を察してか、
運転手は周囲の人を集め、犯人の特徴を告げた。

郵便局員や学生、およそ20人による捜索が始まった。
思い返せば、郵便局からずっと狙われていた。
カメラをリュックにしまう姿を見られたに違いない。
悔しい、悔しすぎる。
もっと注意していれば…。

涙を飲んでカメラはあきらめる。でも写真だけは…。
悲痛な叫びも、やっぱり現実は厳しいものである。
捜索開始から1時間、ようやく冷静さを取り戻し、
「警察に行きたい」と運転手に告げた。

99%無理だよ、そう言われたが、
保険がかけてあるので、盗難証明書を作ってもらいたいことを補足した。
この運転手はとにかく親切だった。
警察に着くまでの間、
ダッカ市内の観光案内をし、
元気のない姿をバックミラーで確認すると
ポンと膝を叩いては、励ましてくれた。
そして時折、「すまなかった…」と
彼には関係のない責任を感じて、額に手をあてるのだから。

警察署でも彼は心強い。
ドキュメントと呼ばれる調書を代筆してくれ、
何人も警察官を集めて、同じ立証検分を繰り返した。
警察で証明書を受け取り、
捜査協力をしてくれた大学生たちのもとへ戻った。

学食に通されて、手づかみでカレーを頬張り、
青唐辛子をかじったとき涙がこぼれた。
辛さと優しさの刺激に耐えかねて。
失った代償は大きいが、
得たものも負けないくらい大きい。
負けず嫌いなので、
「それでもバングラが好き」と胸を張ろう。

 

心が折れそうだ

日記を書き終わり、溜息がひとつこぼれる。

予備のカメラをザックから取り出し、電源をON。
ギギギギ、ジジジジ、と鈍い音を立てて、起動は停止した。
同じ動作を5回繰り返すと、ようやくシャッターが切れる状態に。
コンパクトカメラは今日1台盗まれ、1台は瀕死(頼むよ…)。
残りの2台は修理のため日本にいる。
自慢の一眼レフも露出が狂い、修理に出すタイミングを図っている。
そしてこのノートPCも、ウイルスか湿気の混入により瀕死の状態…。

呪いか?
そう疑いたくなるほど、電子機器が電子危機に(泣)
それでも前に進むしかないこの旅。
心が折れないことだけを、今は祈りたい。

 

旅のカケラ/slideshow

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