インドのチベット、ラダックへ向かう。
目指すはラダック王国の首都であった「レー」で、
ここマナリからの距離は530km。
途中、5000m以上の山を3つも越えるルートで、
1泊2日の行程だ。
ボロボロのローカルバス
13時30分、バスがやって来た。
いつ壊れてもおかしくないボロボロのローカルバス。
レーへ行くには4つの方法がある。
一番簡単なのは飛行機。デリーからレーまで約1時間で結んでいる。
しかし8000ルピー(約2万円)と、インドの物価を考えるととんでもない金額だ。
他の3つはすべて陸路。高い順に紹介しよう。
まずは「シェアジープ」。
とにかく悪路なのでこいつは心強い。
しかも1日でレーまで行くという。
ちなみにお値段1400ルピー(約4000円)。
つづいて「ツーリストバス」。
こちらは1泊2日の行程だが、シートがゆったり。
たいていの外国人はこのバスで行く。
お値段は900ルピー(約2500円)。
そして最後に紹介するのが、
今回選択した「ローカルバス」。
レーまで1泊2日の行程だが、車内は最悪…。
固いシートでもちろんリクライニングはない。
しかも車内はギュウギュウで、
インド人やチベタンと席を奪い合いながら
2日間闘うという過酷な移動。
荷物は屋根の上で、自分たちでロープを用意ししっかりと固定する。
ただ、値段だけは安く、585ルピー(約1500円)。
すっかり頭の中がインド物価になっているため
最近はすべてローカルバスを利用しているが、
あなたならどれを選択しますか?
チベットへの未練
さて、今回の旅の目的の半分は
「チベットへ行きたい」という気持ち。
ご存知の通り、現在のところ外国人の入境が
許されていない状況なので、中国では香格里拉(シャングリラ)で、
そして先日はインドのダラムサラでチベット文化に触れてきた。
でも、足りない。
やはりラダックへ行って、本当のチベットを体感したいのだ。
そんなはやる気持ちを知ってか、バスは進まない。
急な山道を時速15kmで、黒煙を吐きながらノロノロと行く。
そして走り出して3時間、
大きな警告音を合図にバスは呼吸を止めた。
運転手がバスを降り、エンジンをチェックする。
!!! 窓から様子を眺めると、
あたり一面に黒いオイルが流れ出ている。
どうやらエンジンオイルのタンクを激しく地面に擦ったようで
大きな亀裂が入ってしまった。
当然ながら予備のオイルはなく、乗客は全員バスを降りて
事の成り行きを見守った。
幸先の悪いスタート
タバコを吹かし、そしてビールを飲み始めた運転手。
あきらめたか?
周囲の人々もこれといって騒ぎ立てない。
陽が陰りはじめ、急激に気温が下がってきた。
今日はこのままここで1泊するのだろうか…?
ザックからダウンを取り出し、身をかがめて暖をとる。
山際がオレンジに輝いて美しい。
3時間が経過したとき、あるインド人が叫んだ。
「バスが来たぞ!」
そう、代わりのバスを向かわせていたのだ。
再び激しい場所取りをしながら
荷物を移し変え、狭いシートに身体を押し込んだ。
ブルルルゥン、と雄叫びを上げてバスは出発した。
やがて道は土色に変わり、そして雪壁に覆われた。
まるで立山のアルペンロードのようだが、
標高5000mではそんな景色を楽しむ余裕もない。
雲の中に入ったのか視界はほぼゼロ。
運転手の勘だけが頼りだ。
ラダックは果てしなく遠い
深夜2時、ようやく本日の宿営地である「ケイロング」という町に着いた。
明日の出発は早朝5時だという。
宿もなく、バススタンドのベンチに横たわるがやはり寒い。
バスに戻り、狭いシートで丸くなることにした。
目を閉じるてもまだ、頭の中はグラグラと揺れている。
ラダックは遠いな…。
果てのない旅路に思いを馳せながら、
油の匂いの中でまどろんだ。
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