インド洋の貴婦人

 

29ヶ国目は「モーリシャス」。

インド洋に浮かぶ島国で、
薄絹のように美しい珊瑚、
島中に散りばめられた白亜のビーチ、
ささやくような波の音…。

 

天国で過ごす日々

「神はモーリシャスというパラダイスを創り、
それを真似て天国を創った」

と、謳われるほど美しい国。
マダガスカルからの乗り継ぎに失敗し、
天国で過ごす日が1日減ってしまったが、
今夜こそ楽園へ降り立ちたい。

深夜0時、日付が変わると同時に
機体は空へ舞い上がった。
真っ暗な闇に飲まれるように、
雲の中へと吸い込まれていく。
気流が悪いのか、とにかくよく揺れた。

フライトはおよそ1時間、
てきぱきと機内食を食べ、
飲めないワインを傾けながら
村上春樹の『海辺のカフカ』を読みふけった。

空で過ごす時間はいいものだ。
優雅で、どこか不思議な時間。
うんと遠くへワープしてくように、
雲も夜も時空も飛び越えていく―。
期待をぎっしりと集めて。

 

入国拒否!?

しかし、インド洋の貴婦人は
微笑んでくれなかった…。
イミグレーションで1人取り残されてしまった。
入国カードに書いたホテルがいけなかったのか、
身なりがよろしくなかったのか…。

「なんでホテルの予約票がないの?」

係員は問う。
「電話だけで済ませたもので…」
ちょっとうろたえがら答えた。

値踏みをするような視線を浴びせ、
ホテルに確認をとってくる、と席を立った。
や、ヤバイ…(汗

持っていたガイドブックに安宿情報がなかったので
高級ホテルの名前を記入しておいた。
選んだホテルは5つ星(だってそれしか載ってないんだもの!)
このバックパッカーないでたちには不釣合いなホテルだ。

モーリシャスは“インド洋の貴婦人”と呼ばれるほどの
観光立国で、ヨーロッパ人にとって
この国を訪れることはステイタスになっている。

1時間待たされた。
係員が戻ってきて開口一番、

「予約は入っていないぞ」

えっ、おかしいな…
頭を掻きながら白を切る。
すると、
「お前はホントにこの国で過ごせるほど
お金を持っているのか?」
所持金を見せ、仕事内容を問われ、
月収や年収の話に発展した。

所持していた金額は4000ドル、
これなら係員も文句は言えまい。
すると今度は荷物の徹底チェックが始まった。

 

タクシーで逃亡

すべてを終え、ビザをもらうとすでに午前6時、
夜が明け始める時間だ。
両替を済ませ、バススタンドに向かった。
そしてそこには先客がいた…。

犬。目が合うとむくっと起き上がり
伸びをひとつ、低く唸る声が聞こえる。

く、来るなよ、やめろよ、、、

なるべく目を合わせないようにしながら
ベンチに近づいた。すると次の瞬間、
堰を切ったように激しく吠えながら向かってきた。
それに呼応するかのように
遠くからもう2匹駆け寄ってきた。
ノー、ノー、と大声を出しながら威嚇し、
そろりそろりと後ずさる…。

が、孤を描くように距離が縮まっていく!
ここでビビったら負け、確実に噛まれる。
別に犬に噛まれるのはいいのだが、
恐いのは狂犬病。
注射のための病院通いはゴメンだ。

そこに1台のタクシーが通りかかった。
不本意ではあるがタクシーで移動しよう。
とてもバスを待てた状態じゃない。
運転手が犬を追い払い、さあ乗れ!と促す。
「キュールピップ」まで500ルピー(約1800円)と
痛い出費になってしまった…。
バスならこの20分の1だったのに(泣

 

拠点はポートルイス

キュールピップは高原の街で、
ここモーリシャスで1番人口が多い街。
たしかに都会ではあったが、
繁華街は狭く、とりわけ見所がなかった。
宿も早朝だったため閉まっていたので、
首都である「ポートルイス」に移動することを決めた。

バス停を探し、道行く人にバスを尋ねる。
公用語はフランス語、指先だけを頼りに
目当てのバスを探し出した。

キュールピップ→ポートルイスは、およそ1時間で
運賃は26ルピー(約100円)だった。

身体は疲れきってきて、すぐに眠りに落ちた。
ポートルイスに着く頃には雨もあがり、
気温がぐんぐん上昇した。
海からの湿った空気が流れ込み、
湿気もひどい。
コロニアルな街並みとあいまって、
シンガポールにいるような気分になった。

ホテルは1軒目で決めた。
1泊およそ2000円で、4泊する。
トルコ以来の物価の高い国だ。

 

見果てぬ旅路

荷物を部屋に投げ込み、早速街歩き。
コーラで喉を潤しながら
カメラ片手に4時間徘徊した。
銀行や官庁が建ち並ぶメインストリートは
シンガポールを彷彿とさせ、
1本路地に入ると屋台と市場。
ここはマレーシアやタイによく似た喧騒があった。

さらにそこを抜けると「唐人街」と呼ばれる
チャイナタウンがひらけた。
今度は中国の香りが鼻をついた―。
そう9ヶ月前、
あの頃の記憶が鮮やかに甦る。
それは旅のはじまりだった。

思い出していた。
ワクワクしながら、ドキドキしながら
すべてが新鮮だったあの頃。
まさかこんな場所まで来るとはね…。

見果てぬ旅路は、無限の可能性を秘めていた。
相変わらず英語はしゃべれないが、
とりわけ支障はない。
モーリシャスのガイドブックは
申し訳程度の情報しかないが
別に不安はない。

強くなったのか、鈍くなったのか?
ただ、旅の鮮度は維持している。

もっと、もっと先へと進みたい―。
世界は1つ、空と海でみんなつながっている。
ちょっとのお金と時間、
そして、“思い”があればどこへだって行ける。
その用意ができたら、
あとは飛び込んじゃえばそれでいい!

明日はどこへ行こうか?
お金と時間、
そして“思い”はスタンバイOKだ。

 

旅のカケラ/slideshow

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