ハルタビ ’19(中欧編) ♯9 風のささやき

 

中欧の旅もいよいよ終盤に差し掛かった。
5時に起き、小雨が降る中をバスターミナルへ向かった。

大きな荷物は宿で預かってもらい、
小さなリュックには必要最低限のアイテムが入れてある。
1泊2日の隣国へのショートトリップだ。

 

97ヶ国目、モンテネグロ

モンテネグロは、この旅の7ヶ国目で、
実は一番ワクワクしている場所。遡ること1年前、
テレビ番組『世界遺産』で目にしたコトルの景色に憧れて、
この中欧旅を企画した。
航空券を購入してから10ヶ月、 夢が実現した。

アドリア海に面したコトルは湾の一番奥に位置する。
中世の町並みが残る城塞都市で、
旧市街の背後には大きな山があり、城壁が続いている。

旧市街には細い路地が網の目のように広がっていて、
街角には1000年以上の歴史を持つ教会や邸宅も目にすることができる、

コツコツコツ、
とても静かで、石畳みを叩く足音が心地よい。
「すごいところに来たなぁ…」
目の前に広がる光景にため息がもれた。

あいにくの小雨だったが、
明日にはドゥブロヴニクに戻るので
レインジャケットを着て町歩きに出かけた。

 

迷いの旅路

旅先では限られた時間の中で
いくつもの選択肢が与えられ、
その都度答えを出す必要がある。
この雨の中、多いに迷っていることがあった。

それは、ここコトルでどうしても行きたい場所が2つあり、
それは「岩礁の聖母教会」と「城壁」。
どちらも雨では厳しく、
あきらめようかと葛藤していた。
でも、もう一度この場所に来ることは容易ではないので、
「だったら行って後悔すればいい」
と決断した。

ここからいくつもの幸運が重なる。

「岩礁の聖母教会」は隣町のペラストまで
行く必要があり、タクシーを捕まえなければならない。
たまたま乗ったタクシーが当たりで、
格安で2時間チャーターでき、
傘を貸してくれたり、撮影スポットにも寄ってくれたりと、とても親切。
言葉が通じなかったので、本当に助かった。

 

岩礁の聖母教会

ボートに乗り換え、湾を行く。
小さな島にポツンと佇む教会が
「岩礁の聖母教会」だ。
なんて神秘的なロケーション!
まるで絵本の中にいるようだった。

15世紀頃、漁師が小さな岩礁に
聖母マリアのイコンが流れ着いているのを見つけ、
その岩礁を聖なる土地として十字架を立てたのがはじまりだとか。
その後、町の人々が少しずつ埋め立てて、現在のような島ができた。

教会に着くと雨があがった。
あんなに降っていたのに、まさに神がかり的。
空気が澄んでいるせいか、
凛とした景色に息をのんだ。

普段は観光客でごった返している教会も、
さっきまで雨が強かったせいか、
ほとんど人がいない。
本当にツイている。
あきらめなくてよかった。

 

コトルを見下ろす

コトル旧市街に戻ると、
雲が切れ、青空が顔を出した。
雨で洗われた町がキラキラと美しい。
これはチャンスと、「城壁」を目指すことにした。

旧市街の背後にそびえる山に沿って築かれた城壁は、
全長4.5㎞にもおよび、頂上まで歩くと1時間ほどかかる。

次第に小さくなっていく旧市街やコトル湾を
見下ろしながら、ピクニック気分で階段を上った。

中腹には15世紀に建てられた救世聖女教会が建っていて、
ここでひと息つくことに。
木陰に腰をおろし、水を飲む。
あぁ、生き返る。本当にいい旅だ。

コトルは絶景の宝庫だ。
何枚シャッターを切っても撮り飽きず、
すごい、以外の語彙がないのが残念なほど、感動的な景色だった。

草花にしたたる水滴、濡れた階段、
鳥たちの囀り、船の警笛、草いきれ…、
写真には映らない奇跡の光景と、風のささやき。

 

天空の頂、ここがゴールだ

教会からさらに上って行くこと30分、
ドラクエ感が強い城壁の迷路を抜け、
息を切らしながら頂上に到着。

山が近い。雲が近い。

本当に行けるのだろうか?
不安と期待をごちゃ混ぜにしながら
何度も空想した末に、今ここにいる。

旅という、限りある時間の中で、
限りない達成感を得た。

本当にあきらめなくてよかった。
旅先の運は強いと思っているが、
今日ほどツキに恵まれたことはないかもしれない。

 

旅のカケラ/slideshow

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