素朴という名の贅沢

「君はゲストだ」

そう言って今朝も朝食をごちそうになった。
バングラデシュは貧しい国なのに、
よく食事をごちそうしてくれる。

 

もてなしの心

パキスタンでもそうだったが、
ムスリムの人たちは“もてなしの心”を大切にする。
財布を出し抵抗をするものの、彼らは頑固。
ありがたく受けいれることにした。
そんな朝のひとコマの後は、早速移動が始まる。

ボグラからジョイプールハットへのバスは、
乗車時間90分、料金は80タカ(約140円)だった。
ジョイプールハットのすぐ隣には、「パハルプール」という、
世界遺産に登録されている仏教遺跡がある。
ここはバングラデシュのハイライトとして楽しみにしている場所。
空はどんよりと重たい雲だが、時折晴れ間が覗く。

行くなら今日だな。
ガイドブックを読み返して、情報を整理した。

 

パハルプール

パハルプールについて少し触れておこう。
パハルプールの遺跡「ソーマプラ・マハヴィハーラ」は、
ヒマラヤの南側で最大の規模を誇るとともに、
ベンガル地方でもっとも重要な文化的中心だった。
多くの巡礼者を引き寄せたこの僧院では
9世紀のブロンズのブッダ像が発掘され、
地中に埋もれていた大祠堂の外壁には
今でも60体以上のテラコッタ(石造彫刻)が残っている。

幾何学的で四方に広がりを持つ曼荼羅のような大伽藍。
この僧院の形式は、ミャンマーのパガンやカンボジアのアンコールワット、
さらには遠くインドネシアのボロブドゥールと、
東南アジアの各地へと伝わっていったという。
なんだか、「へぇ〜」な遺跡だと知っておいてほしい。

さて今日のホテルだが、最安値を更新する70タカ(120円)!
部屋も広く、バス・トイレ・バルコニー付のシングルルーム。
あとは蚊が出なければ最高である。
荷物を散らかし、小さなカバンひとつでパハルプールへ向かった。

 

素朴であることが一番

ジョイプールハットの街からは約12km。
バスやテンプー(乗合トラック)が多く出ている。
テンプーに乗り込み、バナナが茂る道をガタゴトと進んだ。

遺跡は突然現れた。
広大な湿地帯にひっそりと佇んでいて、
周囲ではヤギや牛が草を食べ、鳥が囀っていた。
テンプーのおじさんが「ここで降りな」と、合図する。
見ると金網に大きな穴。

「ここから入れば無料だから(笑)」

気の利いた運転手だこと。
外国人料金100タカ(約180円)が浮いたので、
チップをはずんでテンプーを見送った。

ここまで数々の遺跡を巡って来たが、
素朴であることが一番感動する。
ありのまま、できるだけ手付かずで。
この遺跡はそんな期待にズバリ応えてくれた。

しばし時を忘れる。
悠久の風を感じるには、時計は見ないこと。
空が茜色になったら帰ればいい。
できるだけゆっくりと歩き、何度も腰を下ろして空を見上げた。
いい風が吹いていた。

 

郷愁の帰り道

帰り道は歩いて帰ることにした。
12kmはしんどい距離だが、
もうすぐバングラの旅が終わると思うと、
もっと近くでこの国を感じてみたい心境になる。

ヤギが鳴いている。
バナナを山積みにしたリキシャが通り抜ける。
さとうきび畑がざわめき、牛が長く唸った。
通りすがりのおじさんが自転車に乗せてくれる。
その後を子どもたちが駆けてくる。

いいなぁ、バングラデシュって。
やっぱり素朴が一番である。

 

旅のカケラ/slideshow

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