ラダックの春

今日も早起き。6時にベッドを抜け出し、
ローカルバスに乗って「アルチ・ゴンパ」を目指した。

 

アルチ・ゴンパ

アルチ・ゴンパは、「仏教美術の宝庫」と呼ばれていて
10世紀末にリンチェン・サンポによって建てられたと伝えられる。
内部に残された創建当時の壁画、仏像はラダック随一の美しさ。
ここを見ずしてラダックは語れない!というほど、貴重なゴンパだという。

ローカルバスで約2時間、料金は50ルピー(約130円)。
インダス川に架かる、タルチョがはためくその小さな橋を渡り、
荒涼とした景色の中をしばらく走ると、
山間にひっそりとたたずむ緑豊かな小さな集落が現れた。
アルチ村だ。

 

ラダックの春を感じた

静かな村を進むと、いくつものお堂が並んでいた。
アルチ・ゴンパの中でも特に素晴らしいのは、
最も古い建物である「スムツェク」と呼ばれる三層堂。
残念ながら内部の写真撮影はNGだったが、
ひとつひとつ表情が違う曼荼羅は、荘厳で目を見張る美しさだった。

今日はレーで知り合い、ときどき行動を共にしている
「かん」とのふたり旅。
スマートな好青年で、24歳の若さながら博学なので話が合う。
最近はこうやって、旅先で知り合った日本人と
一緒に観光に出かけることが多くなった気がする。

「スゴイなぁ」と、溜息混じりにゴンパを見てまわり、
その後は村を散歩することにした。
麦やえんどう豆の畑のあぜ道を歩き、
咲き誇る菜の花にラダックの春を感じた。

 

 

バター茶

遠くで牛が鳴き、モンシロチョウが飛んでいる。
石造りの家の前を横切ったとき、「中に入っておいで」と
ラダックのおばちゃんが庭先に招待してくれた。
大きなシートを敷いて野菜を切り、
お茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいる様子。

チベタン名物のバター茶を振舞ってもらった。
バター茶は、煮出したお茶に塩とバターを入れたもので
とても美味しいとは言えないが、
飲み干す様を嬉しそうに眺めているので
「ジュレー※ありがとう」と、とびきりの笑顔を返した。
空っぽになった湯のみにはすぐに新しいバター茶が注がれ、
結局4杯もごちそうになってしまった。

写真を撮ってもいいか? そう尋ねると、
「ちょっと待って」と髪を結いなおし、
子どもを隣に座らせて姿勢を正した。
そしてみんなで写真を回し見し、ケラケラと笑いあっていた。
なんだかいい光景だな…。

のどかな午後を、こんな風に過ごし
いつまでも笑っている彼女らに別れを告げた。

 

長い長い冬の先

チベットからヒマラヤ山脈を越えて、
癒しの地をラダックに求めた人々。
こんにちは、ありがとう、さようなら、
これらの言葉は「ジュレー」のひと言が担っている。

チベタン(チベット人)、ラダッキー(ラダック人)に
多くの言葉は要らないのかも知れない。
信仰に篤く、いつでも微笑みを絶やさないから、
それだけで通じ合ってしまうのだろう。

帰り道、村の人を目が合うと、
手のひらを合わせて「ジュレー」と微笑んでくれた。
こんなにも平和に見える村も、
多くの悲しみを抱えているとは信じがたい気持ちだった。

ラダックの本当の春は、
長い長い冬の先にある。

 

旅のカケラ/slideshow

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