マヤの忘れ形見

メソアメリカ南部の密林に栄えたマヤ文明。

この旅ではホンジュラスのコパン遺跡、
グアテマラのティカル遺跡を辿ってきたが
メキシコの「チチェン・イツァー」は
マヤ文明のふたつの時代が交わる重要な聖地である。
マヤの忘れ形見を見に行こう。

 

 

チチェン・イツァーを目指す

遺跡にはツアーに参加することにした。
往復バス代、遺跡入場料、ランチビュッフェのセットで
580ペソ(約4500円)。
メキシコは交通費がバカ高いのでこの値段は良心的だと言える。
午前7時、宿にピックアップのミニバスが到着した。

さすがは観光立国メキシコ。
数台のピックアップバスがショッピングモールに集合し、
ツアー内容ごとに受付が行われる。
そこから40人乗りの大型バスに乗り換え
チチェン・イツァーを目指すこととなった。

片道2時間半、バスは高速道路を快適に走る。
エアコンが効いた車内は心地よく
ほとんどの時間を夢の中で過ごした。
よく寝たなぁ…伸びをひとつ打ち、バスを降りる。
外はビックリするほど暑かった。

 

ツアーを離脱

ツアーは楽でいいのだが緊張感に欠けるのが難点。
ぞろぞろと人の波に追随し、
みんなと一緒に「へぇ~」と声をそろえる。
贅沢だが物足りない。
自由に歩き回ってもよい、と言われていたので
ツアー客から離れ、単独行動をとることにした。

チチェン・イツァーは、マヤ語で「泉のほとり」を意味する。
ふいにガイドが車内で飛ばしていた冗談を思い出した。
スペイン語ではチチェン・イツァー、
英語ではチキン・ピッザ…ふっ、くだらない。

遺跡は新旧2つに別れていて、
旧チチェン・イツァーは6世紀頃のマヤ古典期に属し
新チチェン・イツァーはトルテカ文化と融合した
10世紀以降の後古典期に属する。

 

エルカスティージョ

ここがチチェン・イツァーの代名詞。
この端正なピラミッドは巨大なカレンダーでマヤの暦を表している。
四方の階段は91段ずつあり、
頂上の1段を加えると合計で365段になる。
特筆すべきは北側階段にしつらえられたククルカン(羽毛の蛇)で、
年に2回、春分の日と秋分の日には
羽が影となって現れるという仕掛けが施されている。
マヤの天文学はとても高度だったことがうかがい知れる。

残念ながら、現在はこのエスカルティージョには登ることができず
内部も見学が不可だった…。

チチェン・イツァーはたしかに保存状態がよく、
青空とのコントラストが見事で気持ちのいい遺跡だった。
暑さは厳しいが、それを忘れさせる気品も感じられた。
心の遺跡ランキングに入れたかったのだが
ただ1つ残念なことがある。
それは遺跡内の物売り…。

 

残念な物売りたち

 

エスカルティージョをはじめ、神殿の周りには
物売りが店を構えていて
遺跡を眺めながら思いを馳せているときに
「1ダラー、1ダラー」と声をかけられる。

イラッ。

日本人客に限っては
「ヤスイヨ、ホトンドタダ、ビンボー、ビンボー」
と言ってくる。

イライラ!

せっかくのトリップ感が台無し…。
だいたい物売りを遺跡内に入れるのは反則だと思う。
高い入場料を払っているんだから
雰囲気や情緒というものに気を遣ってほしいものだ。
アジアだってしつこい物売りは入口の中までは入って来ない。
あぁ興ざめ…、暑さがぶり返してきた。

 

遺跡で迷子

さて集合時間は何時だったっけ?
車内ではほとんど熟睡していたので集合場所もわからない。
同じツアー客は胸に“168”と書かれたシールを貼っているので
その目印を探すことにした。

しかし観光客はとても多く、
似たような数字のシールがいくつも存在した。
このままじゃランチビュッフェを食べ損ねる!
マヤの忘れ形見になってたまるか。

30分くらい汗だくになって歩き回り、
なんとか同乗者を見つけ出した。
いやぁ、別の意味で緊張感のあるツアーになったよ。
バスが迎えに来る時間を教えてもらい、
ゲートの入口でコーラを飲みながら待つことにした。

 

ビュッフェにも間に合ったし、
聖なる泉「セノーテ」にも行くことができた。

 

 

悪いニュース

宿に着いたのは午後8時だった。
トップニュースとして飛び込んで来たのは
キューバとアルゼンチンがメキシコ便の乗り入れを拒否した
というニュースだった。
豚インフルエンザは昨夜フェーズ4に格上げされ
事態はますます深刻になった。
そして今日、ついに恐れていた国境封鎖が始まった。

 

ここカンクンからキューバに行く日本人旅行者は多く、
宿でも何人かがチケット代が戻ってくるのかを心配していた。
「フェーズ5に上がるかも…」
夜遅くにそんなニュースが飛び込んで来たときには
宿は一時騒然となった。

「フェーズ5=国境閉鎖」

メキシコに閉じ込められる?
みなロビーに集まり、
大慌てで日本の航空会社に電話をかけては、
帰国便の日程変更を行い始めた。

「致死率7%? もはや感染拡大は抑えられない…」
「深まる謎、なぜメキシコだけで死者?」

ネットのニュースも豚インフルエンザで持ちきり。
事態は悪化の一途を辿っている。
帰国まであと2週間、果たして無事に帰れるのだろうか?
カンクンから南に2000km
すっかりバイオハザードと化したメキシコシティ。
街から人影が消えた、商店はほとんどが休業、交通麻痺…
様々な憶測が飛び交っている。
メキシコ政府もついに非常事態宣言を発表した。
今、世界で一番注目集めている街かも知れない。

明日、そんなメキシコ・シティに飛ぶ。
マスクを1枚、心もとない防具を持って…。

 

 

旅のカケラ/slideshow

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