悪魔の鼻

静かな部屋。朝か。よく寝たなぁ。
こうゆう穏やかな朝を迎えると
たいてい大変なことになっている。

静か過ぎる朝と睡眠の充実感、
それはイコール寝過ごしを意味する…。
サァーっと血の気が引き、目覚まし(携帯電話)を見る。
や、やっちまった…(焦

午前5時45分、
散らかった荷物を全部ザックに詰め込んで部屋を飛び出した。

 

アラウシへ急ぐ

「これ、預かっておいてね」
タクシーを拾い、バスターミナルへ急ぐ。
寝過ごしたのによくこの時間に目が覚めたものだ。
旅の緊張感がそうさせるのか。
そういえば晴れている。
という訳で、今日はアラウシに向かい
屋根に乗れる列車で「悪魔の鼻」へと向かう。

ターミナルに着くと、
「アラウシ、アラウシ行きは?」
と叫びながらバスを探した。
あれ、あれ。
指差す先には、ターミナルを出発し
どんどん小さくなっていく緑のバスが…。
え、あれ!?
夜明け前の街を走った、そして叫んだ。
「待ってー!!」
ここリオバンバは標高2800m、酸素が薄い。
2つめの交差点でようやくバスに追いつき
息を切らしながら乗り込んだ。

 

世界の車窓から

アラウシまでは所要2時間、運賃は1.5ドル。
慌しい朝にようやくひと息ついた。
アラウシ発、「悪魔の鼻」行きの列車は
世界で唯一、屋根に乗れる列車である。
きっと『世界の車窓から』でも紹介されているはずだ。

アンデスの渓谷を縫うように走る高山鉄道で、
今ではすっかり観光列車と化してしまい
アラウシを出発して「悪魔の鼻」を通り、
再びアラウシへと戻ってくる。
アラウシの町もまた、コロニアルな町並みだ。
スペインに行ったことはないが
きっとこんな感じなのだろう。

 

お目当ての列車

 

駅まではまっすぐ500m、
駅に着くと駅員が切符売場に案内してくれた。
切符は往復7.8ドル。約2時間の列車の旅。
1両編成のレトロな列車が駅に停まっていて、
当然のことながら窓際から埋まっていく。

「どっちが景色いい?」
ゼスチャーで車掌に尋ねると
右側だよ、と教えてくれた。
ジジジジジ、警笛が鳴り
列車が大きく鳴いた。出発だ。

ガタン、とよろけてからゆっくりとバックする。
ここら辺の列車がそうなのか、
高山列車は皆そうなのか知らないが
スイッチバックを繰り返しながら進んでいく。
前に行ったり、後ろにいったり。
ちょっとおかしな気分。

 

悪魔の鼻

 

分岐点では車掌が列車から飛び降りて
手動で線路を切り替えていた。
さすがは観光列車。
しばらく走ると、
「景色がいいから写真タイムだ」
と、乗客を降ろしてくれる。

険しい谷間、崖っぷちギリギリを走っていた。
「これが悪魔の鼻かぁ?」
どこら辺が悪魔なのかわからなかったが、
渓谷の眺めは素晴らしかった。
ホント、晴れて良かったし、
間に合って良かった。(ほっ)

 

クエンカへの引力

2時間後、町に戻ってきた。
こぢんまりとしていて情緒のある町だ。
旧市街ってなんでこんなに落ち着くんだろう。
遺跡しかり、旧市街しかり、
時が止まったような、穏やかな時間が流れている。

「やっぱりクエンカに行こうかな?」

アラウシの町並みに刺激され、
一度飲み込んだ感情が再び湧いてきた。
時計を見る、午前10時半。
たしかクエンカ行きのバスは13時だった。
急いでリオバンバに戻れば間に合う計算だ。
たら、ればの話だが、
実はここアラウシからもクエンカ行きのバスが走っている。
というか、リオバンバからクエンカに行く中間の町。
しまったな、荷物を持ってくれば良かったよ…。

 

 

行ったり来たり

2時間戻って、また2時間かけてこの町を通過する。
ちぇっ…。
リオバンバの町に戻り、荷物を取りに帰って
クエンカ行きのバスに乗った。
まさかの敗者復活!いざ行かんクエンカへ。

■リオバンバ→クエンカ
(所要時間:6時間/運賃6ドル)
辛い移動となった…。
考えてみれば今日は1日中乗り物に揺られている。
バス酔いなのか、風邪なのか、
頭が疼き、身体がだるい。
何度も時計を見るが、こういうときって全然時間が経たない。
iPodで音楽を聴いていたが、余計に気分が滅入ってきた。

早く着かないかな…。
祈る思いで車窓を見つめる。
明後日にはこの道を再び北上してリオバンバを通り、
首都キトに向かうかと思うと
本当にこの選択肢は正しかったのかと疑問だ。

世界遺産・クエンカ旧市街、
その引力に引っ張られバスは進む。

 

旅のカケラ/slideshow

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