無茶と無謀の境界線

 

目を覚ますと6時だった。
昨日の疲れのせいか、ひどくうなされ、
自分の叫び声で目を覚ました…。

足よし、肩よし、腕よし。
どこも異常なし、今日も行ける!

 

 

聖地ムクティナート

まずは朝の散歩がてら、
仏教とヒンドゥー教の聖地である「ムクティナート」を目指した。
片道1時間、これくらいなら文字通り朝飯前だ。

ヒンドゥ教の最高神の一人ビシュヌ神を本尊とし
108 の聖水が流れる「ムクティナラヤン」や、
観音菩薩の下に天然ガスの青白い炎が揺れる「ジョラムキ・ゴンパ」、
そしてインドからチベットに密教を伝えた
グル・リンポチェが瞑想したという「ナルシン・ゴンパ」
などの寺院が並び、巡礼者の絶えない聖地である。

さすがは聖地。地の果てという景色が広がっていた。
たくさんの巡礼者やサドゥを見かけ、ありがたみが増してきた。
ここは1992年まで外国人の立ち入りを拒んでいた
旧ムスタン王国の入り口でもある。

 

旧ムスタン王国

 

ムスタンの歴史は、9世紀のチベットにおける吐蕃王国滅亡にともない、
その子孫たちが西チベットへ移り住んで建国した
ンガリ王国に始まるとされている。

その後、ムスタンはチベットで産出される良質な岩塩を
インドへと運ぶ交易路「塩の道」の中継地として発展した。

旧ムスタン王国の都ローマンタンはここから遥か先だが、
何年か先にきっと訪ねてみようと心に誓った。

 

歩いて帰ろう

そしてもう1つ。冷たい水で顔を洗い、
ずっとモヤモヤしていた思いに決着をつけるときは今だと決めた。

「よし、歩いて帰ろう」

うすうすというか、きっとこうなるだろうなと思っていた。
飛行機が飛ぶ確率は20%、
そして今日もフライトはすべてキャンセルだった。
そんな薄い望みを2度も叶える自信はない。
ましてや、もし飛行機が2、3日飛ばなかったら…(汗)、
この後の行くイエメン、トルコの航空券がパーになる。

だったら歩いて帰るのが賢明ではないだろうか?
無茶と無謀は違うと思っている。
たしかにポカラまで歩いて帰れば80㎞近い距離がある。
残された日数は今日を含めて4日。
1日平均20kmである。

できそうか?

 

世界の屋根が太陽を隠してしまう

いや、昨日あれだけ苦しんで12、3kmだよ…。
これは無茶だ。でも無謀ではない。
無謀とは、何の作戦もなくただ突き進むこと。
ありったけの情報を集めて(すでにかなり集めてある)、
80㎞を克服しようじゃないか。

そうと決まれば急がねば。
ここはヒマラヤ山脈。世界の屋根が太陽を隠してしまう。
暗くなったら1歩だって動けやしない。
今日は下り。いっきにスタート地点のジョムソンまで駆け下りた。
昨日8時間かかった距離を、なんと4時間を切る速度で戻ってきた。

あと少し、もう少し。
日はまだ高い。
もう3~4km稼いでおくとしよう。
(つづく)

 

旅のカケラ/slideshow

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