別れの風と、友の送り火

ここはパキスタンのフンザ。
昨夜、旅先で知り合った友と合流したため
フンザの滞在を1日延長した。

中国のカシュガルで知り合ったマーさん、
キルギスのオシュで知り合ったトモ。
今日は彼らと過ごす最後の日。

 

城砦アルティット・フォート

3人で「イーグルネスト」という
風の谷を一望できるビュースポットを目指すことにした。
まずは谷を下って対岸のアルティット村へ。
アルティットは、フンザでバルティット、
ガネシュと並び古い歴史を持つ村。
村は城壁に囲まれ、フンザと谷を隔てて対峙する
ナガール王国からフンザを防衛するために築かれた城砦、
アルティット・フォートが建っている。

村の入り口からイーグルネストまでは片道約7km。
ジグザグに谷を登りきった頂上にある。
風に導かれ、青空に祝福されながら
大人の遠足へと出かけた。

 

かけがえのない時間

標高7000mのウルタル山に見下ろされながら
砂煙の舞う山道を歩く。
照りつける太陽に身体を焦がし、
吹き抜ける風に涼をもらった。

のしのしと、牛が横切り
モーっと、雄叫びをひとつ。
それを合図にヤギの大群が小道から飛び出してきた。

「丘を越え行こうよ~♪」のピクニックの歌詞がぴったり。
「さあ、歌声合わせて足並み揃えて、今日は愉快だぁ♪」

たったの2週間だけど、一緒に過ごしたかけがえのない時間。
ふざけ合い、笑い合い、語り合い…。

すべては“めぐり会い”の奇跡が生んだ一瞬のきらめき。
異国で過ごすこの時間は、人生の中のモラトリアムだけど、
未来へとつづく心の架け橋を確実に築いている。
「1年」という限られた時間だからこそ密度も濃い。

 

優しさに包まれている

「こっちが近道だよ」と、
村の子どもたちに先導され、
「チャイを飲んでいくかい?」と、
村人の家に招かれた。

パキスタンに来てからというもの、
忘れていた人の優しさに包まれている。
いつからか、信じる気持ちより
疑う気持ちが先立っていた。
誰も傷つきたくないから、
心の防御策をとってしまうのだろう。

でもここパキスタンは違った。
道をすれ違う人々から、笑顔で祝福され、握手を求めてられる。
肌を通して伝わる彼らの温もりに、
言葉では語れない確かなモノをもらった気がする。

 

言葉の向こう側にある景色

そして旅という共通項と、偶然が重なって出会った友。
彼らとの間に芽生えた信頼関係も、確かなモノだ。
だから明日の別れも、別に寂しくない。
同じ時間を過ごした事実と、
日本で再会する楽しみが背中を押してくれる。

頂上に着くと、360度の大パノラマが待っていた。

村がジオラマみたいで、
谷へと向かう風がここで生まれていることを実感した。
大きな岩に登り、言葉をなくした3人。
言葉の向こう側にある景色と出会ったのは何度目だろう?

ドラマは終わらない。
ピー!っと、笛の音が山に反射した。
すると大勢の子どもたちが集まり、
太鼓の音に合わせて踊り始めた。
なんだ、なんだ?と、戸惑っていたのも束の間、
リズムに合わせ、メチャクチャな踊りで参戦した。

どうやら彼らはボーイスカウトらしく、
この近くでキャンプをしているのだとか。
『ウルルン』のようなワンシーンにやや出来過ぎの感もあったが、
ここは風の谷。すべてがドラマ仕掛けでも不思議じゃない。

 

風を捕まえるメーヴェ

子どもたちとハシャギ疲れ、風に涼んでいると
今度はナウシカが登場だ!
イギリス人がパラグライダーで谷を舞うという。
固唾を飲んで風を待ち
ここだ!という瞬間に鳥になった――。

メーヴェは風を捕まえ、青空に吸い込まれていく。
歓声が風に消え、
頭の中には『ナウシカ』のテーマソングが流れつづけた。

大人の遠足はもうお腹いっぱい。
台本があってもここまでの演出は難しいだろう。
シャワーで疲れを流し、静かな夜を迎えた。
ここフンザは夜は停電のため、真っ暗闇。
そんな夜をマーさんが明るく照らした。

 

また明日

「中国で出会ったKAZと明日別れるので、
“送り火”で旅の前途を祝福したい」

と、マーさんが得意のファイヤーパフォーマンスを開いてくれた。
闇夜を切り裂く2つの炎。
ゴウゴウと風を切りながら、見えない明日を照らしてくれた。
宿泊客や地元の住民が見つめる中、
静かな宴が続いた。

その夜遅くまで語り合い、
最後は少ししんみりした空気でそれぞれの部屋へ散った。

「また明日」

この最後の言葉を聞いたとき、
旅の重さを少し実感した。

 

旅のカケラ/slideshow

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