また会えるかな

毎日決まってスープヌードルを注文する。

澄んだスープに、バミーと呼ばれるたまご麺、
ボール状の魚のすり身が5つ浮かび、
青菜ともやしが添えられている。

 

最後のスープヌードル

このままでも旨いのだが、
ここにナンプラーを少したらし、
唐辛子と砂糖をまぶす。これで旨さが倍増する。
え、砂糖? ちょっと意外な気がするが、
なーに、恐れることはない。
最初はおそるおそる入れていたが、
今は小さじで山盛り3杯、躊躇わずに降り注ぐ。

ちょっと甘すぎたかな?
そんなときは粉末唐辛子を入れれば修正がきくのだから。
この味付けが1発でキメれるようになるくらい
よくこの屋台には通った。
これでしばらくお別れだね、
丁寧にスープを平らげて店を後にした。

 

ふらふらと街を徘徊した

カオサン通りの名物、「パッタイ」と、
道端のフルーツ屋さんのパイナップルを食べ収め、
カメラ片手にふらふらと街を徘徊した。
すべてが懐かしくて、いとおしい。
正直、タイをナメていた。
もう何度も訪れてるし、
中東やアフリカを旅した後だけに、
刺激が足りないかと思っていた。

わざわざケニアから飛んでくる価値はあるのか?

価値はあった。今までで一番のタイだった。
この変化球は最高の1球だ。
自分が変わったのか、タイが変わったのか
“ゆとり”が違っていた。
嫌な気分になることが1つもなく、
いつも優しい気持ちでいられた。

 

戻って来られる場所

こんなにも急ぎ足で世界を巡り、
さまざまな絶景を見尽くしてきたけど、
それは何度足を運んだって見飽きないモノだと確信した。
新鮮さや驚きは薄れるかも知れないが、
懐かしさが上塗りされ、情のようなものが湧いてくる。
そこはもう自分の場所。
世界中に戻って来られる場所ができた。
何度だって、同じ場所で、同じ景色をカメラに収めるだろう。

「ありがとう、チェックアウトね」
午後10時、オーナーに部屋の鍵を返した。
え、もう行くのかい?
ほとんど会話を交わしていないが、
このオーナーを信頼している気持ちが伝わったのだろう、
少し寂しげな表情で握手を交わした。

「バイバイ、マータネ」
妙なイントネーションがあったかかった。

 

バイバイ

空港へ向かうバスに乗り込み、
流れる街のネオンを追いかけた。
街燈が窓に吸い寄せられては、一瞬ではるか彼方へと消えていく。
これが時間なのだろう。
すべては一瞬一瞬の出来事。
過去が蓄積されていくのか、過去が未来を追い越していくのか。
“今”という意識だって、それは記憶で
すでに過去のはじまりだもの。

楽しかったなぁ、タイ。
いつだってまたここに戻って来られるのだから、
人は過去にも未来にも旅できるってわけだ。
きっとそのときもスープヌードルの味付けは
1発でキメれるだろう。

 

旅のカケラ/slideshow

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