はじまりの場所へ

タラップを降りると、スパイスが混じりあった
アジアの香りに包まれた。

「あぁ、また戻ってきたんだな」
懐かしさと安らぎをくれる場所。
10ヶ月ぶりにタイ、バンコクに帰ってきた。

 

 

アフリカからアジアへ

昨夜はアディスアベバ(エチオピア)の空港で
6時間のトランジット。深夜なので人はまばら。
地べたに座り、読みかけの本を友に過ごした。

午前2時半、待ちかねた搭乗。
ナイロビ(ケニア)からのフライトと同様、エチオピア航空だ。
さっそく機内食が振るまわれ、
今度はフィッシュをオーダー。
再びチョコレートのムースケーキが付いてきたので
これまた大満足。しっかりとコーラもお替りした。
機内はバスと違い、流れる景色がないため退屈だ。

本も読み終えてしまったし、することがない…。
すでに朝方なのに眠気はどこへ行ってしまったのだろう?
到着まで残り8時間、1分おきに切り替わる
フライト状況のモニターをただ見つめていた。

ようやく眠りについたのは午前9時頃だった。
トントン、と肩を叩かれ
せっかく寝ついたのに!と目を開けると
2回目の機内食(朝食)が運ばれていた。

 

イエローカード

出発からちょうど24時間、
タイのバンコクに到着した。
時計を4時間進め、現地時間に合わせる。
新しくなったタイの空港は、とても巨大で
イミグレーションまでどれだけ歩かされたことか。
年末ということもあって長蛇の列。

やっと順番が回ってきたのに、
「君、アフリカから? じゃあ、
ヘルスコントロールでスタンプもらってからだね」
と、ふりだしに戻されてしまった。

イエローカード(黄熱病の接種記録)をザックから掘り当て
係員に提示。簡単な書類を書いて提出した。
入国カードにスタンプをポンと押し、笑顔で見送ってくれた。
さすが、微笑みの国。

再び長蛇の列に並ぶも、不思議と気持ちは穏やかだった。
タイの空気がそうなのか、
やさしさに包まれたような、ほんわかとした気分。
アフリカのポレポレ(のんびり)と、
アジアのゆるさは質が違うことを知った。
やっぱりアジアは落ち着くよ。

 

懐かしのカオサン

空港から安宿があるカオサンまではおよそ50km。
シャトルバスがあったのでそれに乗ることにした。
150バーツ、円高のおかげで約370円。
バンコクというと渋滞のイメージが強いのだが、
年末休暇だからだろうか?
夕方にも関わらず車はスムーズに流れていた。

賑やかなカオサン通りに降り立ち、
改めて懐かしさを感じた。
ここは世界有数の安宿街、人種のるつぼ。
世界中からバックパッカーが集まってくる。
原宿のように通りは人と店がひしめき。
一日中、音楽と喧騒に溢れている。

10ヶ月ぶりに帰ってきたカオサンは
何も変わっていなかった。
ただ、人の記憶はあいまいなもので、
前回泊まった宿を探すのに2時間もかかってしまった。
そんなお目当ての宿『ATゲストハウス』は、
1泊100バーツ(約260円)。
ドミトリーだがベッドは清潔で、
なによりも1000冊近い漫画が置かれているのが魅力だ。

 

今なんだよ

『スラムダンク』をベッドに山積みし、
“山王工業戦”に没頭した。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ」
安西先生の言葉が胸を熱くする。
「あんたの栄光時代はいつだよ、全日本か?
俺は今なんだよ」
花道のこのセリフが1番好きだ。

年の瀬に、ふらっとタイに飛んできて
懐かしさと漫画に心を癒す。
いいんじゃない?
はじまりの場所、こんな1ページ。

あきらめてないし、俺も今なんだよ。

 

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