今日も移動日。
タイのハイライトを終え、
次なる国、ラオスへの憧れが高まったのか、
見終わったビデオを巻き戻すように
元来たルートを足早に駆け抜ける。
昨日の13時間の移動の疲れを引きずったまま、
バスに乗り込む。
まずはスコータイ→ピッサヌロークの1時間。
国境の街へ
この後、ピッサヌロークで事態は急変した。
夜行バスでノーンカーイという
国境の街まで向かい、
朝、気持ちよく最後の街へ降り立つ。
そんなシナリオを描いていたはずだった…。
しかし、ノーンカーイまでの直通バスはなく、
手前のウドーンターニーまでは6時間という、
中途半端な乗車時間。
着いたら深夜12時だ。
ここはタイ。なかなか事前に
バスの時刻表を調べることが難しく、
毎日が出たとこ勝負。
今日は運に見放されたか…?
とにかく進むしかない。
あれこれ考えても仕方ないときは前進あるのみ!
日本と違って、すべてが整った国じゃないから
現地に着けば何かしら新しい風が吹いてくるもの。
タイ語で早口にしゃべる
ジャッキーチェンの映画を大音量で流しながら
夜のとばりへとバスは吸い込まれていった。
特等席
話はそれるが、最近のお気に入りは最前列。
運がいいと助手席にも座らせてくれる。
ここから豪快なドライブを眺めるのが好きだ。
タバコを吸い、ネスカフェを飲むドライバー。
ときどき、食べかけの豆を分けてくれる。
大きなハンドルを指先でチョコチョコ回し、
意識の大半はおしゃべりに集中。
それでも対向車線をめいっぱい使って、
次々と前をゆく車を追い抜いていく。
突然バスを停め、
商店へとおやつを買いに行く運転手。
「私も、私も」と後を追うようにバスを降りる乗客。
こんなことを繰り返すから決まって到着時間は遅れる。
でも誰も文句をいう人はいない。
これがタイの懐の深さなのだろう。
ウドーンターニーにて
さて深夜1時、
ウドーンターニーのバスターミナル。
すり寄ってきたトゥクトゥクの運転手に
「ノーンカーイへ行きたい」と告げる。
この先にバス停があり、
そこから乗るようにと、返事をくれた。
「80バーツ(約300円)で送るよ」(運転手)
「いいよ、歩いていく」(KAZ)
「5kmはあるから無理だ」(運転手)
「20バーツ(約70円)でいいなら乗るけどね」、
と手を振り歩き出した。
こんな時間の客だ。
彼にとったら少しでも金にしたいところ。
「わかったよ、乗れ。
タイ人でも60バーツなのに困った日本人だ…(苦笑)」(運転手)
文句を言いながらも、笑っているタイ人。
この国の人はいつ怒るんだろう?と、
不思議なくらいに懐が深い。しみじみ。
何もないバス亭に落としてもらった。
こんな時間でも明かりを灯していた果物屋でリンゴを1つ買う。
梶井基次郎の『檸檬』を思い出しながら愛おしく林檎を握り締め、
楽しげに話をする人たちの輪へと向かった。
英語でしゃべりかけるが通じない。
ならばと、
「ノーンカーイ、ノーンカーイ」
と、呪文を唱えてみる。
笑顔で街の方向を指差す。
そしてここで待てばバスが来る、
そんなことを言ってるようだ。
時刻は深夜2時。
こんな時間にバスは来るのだろうか?
待つこと10分、誰かが近づいてきた。
さっきの呪文が効いたのか、
ノーンカーイへ行くという
男性の車をつかまえてきてくれたようだ。
交渉の末、50バーツ(180円)で乗せてもらえることに。
約50kmの距離をこの値段なんてありえない安さだ。
こうして辿り着いたタイ最後の街。
やっぱり追い風が吹いてくれた。
厳しくて、優しい国・タイ。
タイの懐に包まれるように、
うだる暑さの中で顔をしかめながら眠った。
窓の外にはメコン川。
対岸はもうラオスだ。
コメントを残す