水平線から顔を覗かせた太陽。
幾百年と続いてきた“あたりまえ”のシーンと、
空を見つめるモアイ。
不思議な島の1ページにいる自分。
沈黙のモアイ
ここイースター島は、「ラパ・ヌイ」と呼ばれ、
約900体のモアイが佇んでいる。
波に洗われ、風にさらされ、気の遠くなるような長い時間の中で
彼らは押し黙ったままそこにいる。
この島に最初に人が移ったのは4世紀頃とされ、
ポリネシア系民族に属していたとか。
10~11世紀頃には島の社会情勢が悪化し、
守り神であった“モアイ倒し戦争”が勃発した。
やがて18世紀には立っているモアイは皆無となった…。
雨上がりのドライブ
通り雨が去った。今日は島を1周する。
レンタバイクで出かけようと思っていたが、
幸いなことに同じくバイクを借りようとしていた
福田夫妻と知り合い、
「じゃ、一緒にレンタカーしましょうか?」
と、話がまとまった。
4人で車を借りたので1人あたり15ドル。
バイクよりも安上がりで、しかも快適だ。
先発で運転をすることになった。
初めての左ハンドルに右側通行、
ピリリと背筋を張ってアクセルを踏み込んだ。
日本でも数えるほどしかマニュアル車を運転したことがないのに
右手でギアチェンジ!?
しかも気をつけないといつものクセで左車線を走ってしまう。
ウインカーを出したつもりがワイパーが始動…。
スマートじゃないよね(泣
パナ・パウ
午前11時に島巡りを開始。島の周囲は58kmで、
時計回りに進むことにした。
車窓を流れる景色は牧歌的で、緑が生い茂る小高い丘が連なり、
時々馬が道を横断して行く手を遮る。
風は初夏、夏草の匂いがした。
牧場の細い道を縫うように進み、「パナ・パウ」に着いた。
モアイの頭には“プカオ”と呼ばれる帽子が載っていて、
ここはそのプカオの切り出し跡。
風の丘に無骨な帽子が転がっていた。
モアイ像とは違う赤色凝灰岩が使われ
何のために造られたのかは謎である。
知りたがりな自分も、この島の謎は
謎のままが心地よく思える。
白砂の入江
島の中央を伸びる道を進むと海がひらけた。
「アナケナ海岸」
伝説の王、ホツナツアが上陸したとされる場所で、
ココナツヤシの林を抜けると穏やかな白砂の入江があった。
波に誘われるように海へ―。
海に来るといつも少年の瞳になる。
波にたゆたい、入江を望む丘に立つモアイを見つめた。
プカプカと浮いていると時間が止まったような錯覚に陥る。
いつまでもこうしていたい―、
心の声が聞こえる。
だから帰り際は淋しさが募る。
幾度となく過ぎ去っていった
夏休みを思い出すからだろうか?
島を時計盤に例えるならば、12時の位置に「テ・ピト・クラ」がある。
ここはパワースポットで、観光客の人だかりができていた。
海岸近くにツルツルの丸い石があり、
“光のヘソ”と呼ばれている。
直径は1m足らずのくせして、重さはなんと80トン!
ありえねぇ~
伝説ではホツマツア王がカヌーで運んで来たそうだが
無理無理、絶対に沈むって…。
さらにこの石には強力な磁場があり、
コンパスを近づけると針はクルクルと方向を失った。
こういう神秘系は大好きなので、
石におでこをくっつけ、そのパワーにあやかった。
無数のモアイたち
3時の位置に車を走らせた。
この島最大の15体のモアイが立つ「アフ・トンガリキ」がある。
モアイ倒し戦争で倒されたモアイを復元しようと
一役買って出たのが日本のクレーン会社『タダノ』で、
クレーンの提供や1億円にも及ぶ資金援助を行ったそうだ。
日本ってスゴイねぇ。
かつての雄姿を取り戻したモアイたち、
今、何を思い、何を見つめているのだろうか…?
4時の位置、「ラノ・ララク」。
島を巡る時間旅行もそろそろ終わりが近い。
なだらかな丘には400体近いモアイがあり、
胸まで土に埋もれ、途方にくれたように佇んでいた。
ここは山丸ごとモアイの製造工場跡で、
すべてのモアイはここで生まれたそうだ。
日が西に傾き、西日に照らされるモアイ、
本やテレビで見た景色がここにあった。
憧れだった場所にいる。
時が止まったままの、遠い遠い場所。
距離や時間じゃ計れないような、不思議な場所。
「もう二度と来れないかも…」
そんな声を打ち消すように写真を撮り続けた。
夏が終わるね…
影が長く伸びたモアイと対峙し、
郷愁に似た感情が込み上げた。
「夏が終わるね…」
一年を過ぎた長い旅は、
ずっと終わらない夏を歩んできたつもりだった。
ぼくのなつやすみは、
確実にカレンダーをめくり、終盤を迎えている。
スイカも、花火も、まつり囃子も…
どんどん遠ざかっていく。
渇いた汗が運んでくる涼しさと淋しさ、
去り行く夏を惜しむように力いっぱい鳴く蝉。
「夏が終わるね…」
モアイの声が聞こえる。
甲子園球児のように
ひとつかみの砂をポケットにしのばせ、
この暑さと、夏のカケラを心にしまった。
モノ言わぬモアイ、
あなたは幾度の夏を見送って来たの?
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