目覚ましのベルと同時に耳にした雨音、
え、雨…!?
慌ててカーテンを開け、ポタポタ雫に落胆した。
せっかく、ここまで来たのに…涙雨。
気力も雨雲に隠れ、力なくベッドにうなだれた。
上手くいかない南米の旅、晴れ男ぶりもなりを潜めたか…。
また1つ未練を残して…
湯を沸かし、朝からパスタを茹でながら
タマネギをスライスして、醤油と油で炒める。
昨日の残りの肉を細かく刻んでパスタに和えた。
最近じゃ毎日自炊をしているので、
キッチンに立つ姿もずいぶん様になってきた気がする。
何度も窓の外を覗いたが、雨は止む気配を見せない。
ときどき小雨になるが、分厚い雲が居座っていて
お目当ての「フィッツ・ロイ」は姿を隠したままだ…。
フィッツ・ロイは、広大なパンパの向こうに忽然と現れる山で、
その鋭利な岩峰群が印象的だ。
先住民はこの山をエル・チャルテン(煙を吐く山)と呼んでいた。
濃紺の空を背にそびえる姿を期待していたのに…残念。
昼まで天気の回復を待ったが、期待には応えてくれなかった。
それでも小雨の中を山の麓まで行き、
見えない頂をカメラに収めた。
また1つ未練を残してこの町を後にする…。
昨日満室だった日本人宿『フジ旅館』に電話をかけてみると
「空きがある」と返事が返ってきたので
再びエル・カラファテにとんぼ帰りすることにした。
もう一度エル・カラファテへ
■エル・チャルテン→エル・カラファテ
(所要時間:4時間/運賃:65ペソ ※約1800円)
2時間も走った頃、雨雲は途切れ、青空が戻ってきた。
川のほとりのレストランで小休憩を挟んだので、
食事はカットして周囲を散歩することにした。
風は強く冷たかったが、広大なパンパをこの足で踏みしめると
パタゴニアにいるんだ!と、実感が湧き、喜びを噛み締めた。
午後5時過ぎにエル・カラファテに着いた。
予約した『フジ旅館』にタクシーで直行し、
丁寧に応対してくれる女将さんに心癒された。
短い廊下を抜けると居間があり、
そこには卓袱台とホットカーペットがあった。
大きなテレビからはドラマ『HIRO』が流れているし、
ここはもう日本だ♪
荷物をベッドに置き、夕方の町を散歩に出かけた。
風の大地で見た情景
小さな町を抜けると「ニメス湖」がある。
たくさんの水鳥が羽を休めていて、
遠くには雪を頂いた山々がそびえていた。
湖畔には白や黄色の小さな花が咲き乱れていて
西日を受けて少し赤みがかっていた。
風に揺れる花々の小道をひとり歩いていく。
日本で言うなれば花鳥風月、
パタゴニアではシンプルな自然が、この上なく美しい。
言葉を失うような絶景とはちょっと様相を呈し、
色素の温度が温かいというか、
写真ではなく、絵のような美しさ。
大地の果てが近いからだろうか、
いとおしい気持ちが込み上げてくる。
風はどんどん冷たくなり、容赦なく体温を奪っていく。
「そろそろ帰ろうか」
ひとり旅はいつも心の中でそっと呟く。
自分で自分に語りかけ、その返事もまた自分。
誰かといるときよりも、
自分の気持ちの深いところまで手が届くようで
見るもの、触れるものに対する感情が
直列回路で伝わってくる。
「帰ろう、帰ろう」
宿に戻ると午後9時を回っていたが、
外はまだ明るい。
この時期、パタゴニア地方は日がとても長いのだ。
ホットカーペットに座り、
最終回を迎えた『HIRO』を観ながら談笑にふけった。
こうしてまた1枚、パタゴニアのカレンダーが落ちていく。
「もっと長く居ればよかったかな?」
身近すぎる予定を少し悔やんだが、
短いならば密度を濃くすればいい、と思い直した。
ホットカーペットからはいつまでも離れられず、
パタゴニアを旅しながらも、
日本の“情景”を欲している自分がいる。
コメントを残す