マトゥラーの性悪リキシャ

月に1度、体調を崩す相方ヒロ。

昨夜から死んだように眠り、
呼びかけても意識が朦朧としているのか、
「あぅ…」としか返ってこない。

 

クリシュナ生誕の地

 

非情にもそんな彼を部屋にひとり残し、
アグラから約50km離れた
「マトゥラー」という街を目指すことにした。

 

マトゥラーは、クリシュナ生誕の地として知られ、
ヒンドゥー教の聖地。
シヴァの聖地がヴァラナシだとすれば、
ビシュヌ神の聖地がここである。
小さなリュックひとつでバスに乗り込み、
熱風にさらされながら2時間の仮眠をとった。

マトゥラーは、ひどい喧騒に包まれた街だった。
ひっきりなしにリキシャが街を駆け、
それを追い払うかのように
バスやトラックが派手なクラクションを鳴らしまくる。

道はガタガタ、砂埃と吐きガスで街は霞んでいた…。
言葉の響きなのか、クリシュナのイメージなのか。
穏やかな街を想像していただけに少しショックだった。

 

約束していない

そして追い討ちをかけるように、性悪リキシャが多いこと…。
旅をしていると、自分の本当の性格が顔を出す。
日本にいるときは周囲に気を遣い、
歩調を合わせることが大切だったが、
ここはインド。日本のルールや常識は通用しない。
お互いに生きるために必死なのだ。

だから1日に3度もキレてしまう自分がいた…。

例えば、交渉の末に乗ったリキシャは
目的地に着くなり「そんなことは約束していない」と、
3倍の金額を吹っかけてくる。
ふざけんな!
ヤツの胸に金を押し付け、不機嫌にその場を離れる。
それでも、ヒンディー語の罵声がどこまでも追いかけてくる。
なんだろうこの後味の悪さ。

あるリキシャは、指定した目的地がわからず、
結局途中で放棄。
しかも、ここがその目的地だと言い張る。
なんてタチの悪いヤツ!
どうせ観光客だからわからないだろうと高をくくっている態度に
怒りを抑えきれない。

それでいて文句を言うと、
「そんな金額ではやってられない」と逆ギレだ。あちゃー。
だったら最初から頷くなよ!もう!

 

反撃!

こんなヤツには容赦しない。
こちらも精一杯怒ったフリ(結構マジだったけど…)をし、
リキシャのシートをバシっと叩いて、
やってられないぜ!と、立ち去った。
もちろんお金は払っていない。
意地になって追いかけてくるリキシャをあざ笑うかのように、
建物の隙間をヒョイヒョイっと通り抜けてやった。

インド人(一部だと願いたいが…)はとにかく調子がいい。
人懐っこい感じで客を寄せ、
都合が悪くなると手のひらを返し、責任を放棄する。
リキシャに乗って気持ちよく降りられる確率は半分以下である。
悔しいが、土地勘がない以上、リキシャを利用しないわけにはいかない。

そこで1つルールを設けた。
支払いの際、交渉した金額をすんなり受け取ったリキシャには
必ずチップを渡すというものだ。
ケチケチして気持ちを小さくしたくないから、
誠実料を上乗せすることにした。
この小さな運動に気づき、
心を改めてくれるリキシャが増えることを願って。

 

錆びれた街

さて、マトゥラーの話に戻るが、
性悪リキシャに翻弄されたため、
肝心なクリシュナを拝むことができなかった…。
お寺はすべて15時まで。
ようやく目的地にたどり着いたときには、固く門が閉まっていた。
それでも街外れにある「ヴリンダーバン」という生誕地を訪れ、
迷路のような小路をさまよった。

時間がとまったかのような錆びれた街に、
実に4000とも言われるヒンドゥー寺院がひしめいている。
そこに祀られているクリシュナには会えなかったが、
彼女が生きた街を、空気を、そして時間を感じ取ることができた。

宿に戻ると、優しい表情のクリシュナとは正反対に、
生気の失せた険しい表情のヒロが唸っていた。
お供えもの(笑)の果物を彼に手渡し、体調が良くなることを祈願した。

明日はカジュラーホへと移動する。
はたして彼は10時間の移動に耐えられるのだろうか…。

 

旅のカケラ/slideshow

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