「松藩(ソンパン)」という小さな町。
本来ならここから蘭州に向けて北上する予定だったが、
なぜかバスのチケットを売ってくれない。
「没有(メイヨー)」※ない の1点張りだ。
道が通れないだか、チベットの影響だとか…。
没有(メイヨー)
仕方なく成都に戻ってまわり道をすることになった。
中国に来て、何度このメイヨーにやられたことか?
宿でメイヨー、食堂でメイヨー、おつりでメイヨー、、、
すべてを台無しにする嫌な言葉だ…。
しかしこんな小さな町でも、
ちゃんとドラマは用意されていた。
まったくブログのネタには事欠かない旅だ。
行き先はそれぞれ違う
「黄龍」からこの松藩まで相乗りしたふたり。
日本人の青年で、彼らも長期の旅をつづけている。
人生観ではないが、これまでの行程や今後の進路が主な話題だ。
堪能な中国語、巧みな交渉術、そしてさり気ない気遣い。
ともに宿を探し、食事をとって、短い時間を共にした。
そして朝、扉を叩く音。
貸していた旅の情報ノートを返しにきたのだった。
今からバスで旅立つという。
健闘を祈りつつ、握手で別れを交わす。
ホント、いくつもの出会いがあるが、
いつも別れはこうやってすぐ隣にある。
行き先はそれぞれ違う。きっかけも、目的も。
それでも、お互いの思いが交差する瞬間がある。
旅と人生、やっぱり似てるな。
たとえ一瞬でも、かけがえのない出会いだし、
すぐ隣にある別れを超える“意味”がある。
同じ方向を向いていれば、必ずどこかで会えるだろうし、
違う方向を向いていたって、またいつかまた交差する時が来る。
再び布団にもぐり、眠りについた。
4枚のメモ
窓から陽光が差し込み、心地よい朝を迎えた。
何気なく貸していたノートをめくると、
パラパラと4枚のメモが滑り出てきた。
そこにはギッシリと中国語のコツや常用単語が。
「今後の旅に役立ててほしい」と、添えられた言葉。
貸していたノートを写す時間よりも、
このメモを作る時間の方がはるかにかかっている…。
―ありがとう―
今はもう、
違う空を見ている彼らに向けて
心からそう届けたいと思った。
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