流れ星を数えながら
溜息をひとつ、フゥ…。
ようやく長い、長い夜が終わろうとしている。
―――。
もう、お腹いっぱいなんです…
下弦の月
砂漠の夜がやってきた。
下弦の月がうっすらと白砂の大地を照らす。
見上げた空には星屑、そしてミルキーウェイ。
ときおり、星が夜空からこぼれる。
靴を脱ぎ捨てると、
ひんやりとした砂に素足が気持ちよかった。
遠くで焚き火がパチ、パチと遠慮がちに鳴いた。
実にいい夜だ。
そうだ、小学校時代のキャンプを思い出した。
フォークダンスやだしものを終えると、
風に揺れる木々の影や、焚き火の炎をじっと眺めた。
先生の話がつづく。
今日の日はさようなら~また会う日まで~♪
2番をハミングで歌えば、なまじ小学生だって
センチメンタルな気分になったものだ。懐かしい。
静かに夜が更けていく
カイロで出会った8人、
オール日本人でこの砂漠ツアーに参加した。
偶然集まったメンバーにも関わらず、
昔から知っているかのように居心地がいい。
がんばらなくていい、それが大きい。
距離感が絶妙で、変に気を遣わせない間柄なのは
同じように長い旅をしているせいだろうか?
旅は人を素直に、そして優しくしてくれる。
食事を終えると、
輪になっておしゃべりがはじまった。
とりとめのない会話たち。
1つの話題にみなが耳を傾けるときもあれば、
個個に花を咲かせるときもある。
誰かがギターをポロンと鳴らし、
誰かが手品をひとつ。
まるで気まぐれな流れ星のようで、
静かに、静かに夜が更けていく。
何かの拍子に、
すごい場所にいるね、
いい夜だね、
いいメンバーだね、
と、胸がキュンと疼くような溜息を
何度もこぼした。
砂漠のバカ騒ぎ
ガイドの3人は食事の片付けを終え、
夜営の準備を整えた。
ここからが彼らのうっとうしいくらいの
“もてなし”が始まった。
手始めに太鼓を持ち寄り、
終わりのない歌を披露。
合いの手をいれるよう促され
パチン、パチンと手拍子を刻んだ。
10分、20分、
エジプト版長唄は終わらない…。
いい加減手が痛い、腕がダルい。
この砂漠に負けない
果てしなく、そして内容のない時間が過ぎていく。
トイレに行くふりをしてこっそり輪を抜け出し、
少し離れた場所で横になった。
結局彼らの歌が終わるまでに、
4つも流れ星を数えた。
車の下にじっと隠れ、
突然「ガルーっ!!」と驚かしてくるモハンメッド、
麦わら帽子が気に入ってしまい
絶対に返そうとしないムスタファ、
何しに来たのか、料理も運転もせず、
いつもいびきをかいていた、
もうひとりの名は忘れてしまった。
ムスタファは20歳。
ルールも教えないくせに
エジプトのトランプ勝負をしかけきては
早く、早くとカードを急かす。
デキレースに気分を良くし、
次はお前と、指差され、
無限地獄に引きずりこまれる…。
眼鏡をかけたねずみ男顔は、
一晩中ほくそ笑んでいた。
モハンメッドは30歳。
3人は人を殺していそうなくらい
いかつい顔をしている。
自分よりも年下とは到底思えない風貌だが、
やってることは中学生レベル。
誰かが寝ようものなら、
全員で取り囲むよう手招きし、
耳元で、歌い、太鼓をかき鳴らす。
子供か…!
深夜2時、いい加減眠い。
布団に入ろうとしていると、
突然、ムスタファの集合がかかった。
な、何だよ、、、
問答無用。
身振り手振りでゲームの内容が説明された。
誰かひとりがみなに背を向けて立ち、
身体の脇に手のひらを構える。
その手のひらを残ったメンバーが叩き、
誰が叩いたか、を当てるというシンプルなゲーム。
乗り気がしないままゲームははじまり、
ムスタファの強烈なイッパツが
骨の髄まで響いた。
もう、痛いって!!
どんぐり眼をパチパチさせ、
シラを切る30歳のエジプト人。
「おめえだろ!」
「ん、ムスタファ?」
ちょっと悲しげに首をかしげる。
「おめえしかいないだろっ!!」
「イエス♪」
と、笑顔で鬼役を交代した。嬉しそう。
こんな意味不明なゲームが実に2時間…。
8人と2人、10人の“いい歳”たちは
真っ暗な砂漠に、
パチン、パチンといい音を響かせた。
長い、長い夜
午前4時就寝。
流れ星を数えながら
溜息をひとつ、フゥ…。
ようやく長い、長い夜が終わろうとしている。
―――。
もう、お腹いっぱいなんです…
砂漠にマットを敷き、毛布に包まった。
ようやく別腹デザートからの開放。
口の中でジャリっと砂を噛みながら眠った。
ただ、ほんの2時間後には
ねずみ男に叩き起こされる運命だったが…。
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